日本ではまたまたそれらしい邦題で公開されている「Tinker Tailor Soldier Spy=裏切りのサーカス」。・・・この邦題ってサーカスの意味を取り違えられやしないかい、、?と気になってしまったりして。イギリスでは去年の公開だったのでもうDVDになっている。友人からこのDVDをもらった

実はこれはもう数週間前に観てすごく面白くて、「こういうイギリス映画が好きだなあ〜」と思った作品だ。原作は有名なスパイもので、本国イギリスでは知られた作品のようだけれど私は原作は全く知らなかった。本来もっと長いストーリーのようで、今回の映画ヴァージョンはもうこれ以上ははしょれないだろう!って思う位ギリギリに詰め込んである。観ていて気が抜けない。台詞を一行聞き逃したら命取り、、みたいな緊迫感がある。

舞台は70年代でイギリスのMI5、旧ソ連のKGB、ソ連とアメリカの冷戦時代、、、今となっては一時代前の設定なので、若い人達にはよく解らない部分もあるのかもしれないけれど、国と国との諜報合戦=スパイ/二重スパイが密かに活躍していたという意味ではスリリングなストーリー展開にはもってこいだ

英国秘密情報部のトップグループ=通称サーカスに実はソ連の2重スパイが紛れ込んでいるとの情報を得て、サーカスのリーダー/コントロール(ジョン・ハー ト)はジョン・スマイリー(ギャリー・オールドマン/どうかゲイリーって呼ばないであげて!)にその捜査を持ちかける。が、最初の作戦は失敗し、コントロールとスマイリーは退職させられる。その 後コントロールの死後、再びスマイリーが本格的にモグラ探しの命を受け、助手のギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)と共にモグラをあぶり出すべく調査 を開始する

この映画が良くできてるのは、スパイ映画にありがちな派手なシーンが全くない。カーチェイスやら大爆発やら007シリーズにあるようなエンターテイメント要素を見事に使わず、頭脳プレーで攻めて来る。観ていて頭を使うので気が抜けないのだ。誰がモグラか解らないので調査している事を誰に気付かれてもマズい。という事で一挙一動にも隙を見せられず(敵も見せて来ないし)、そのドキドキする緊迫感と高揚感でどんどん魅入ってしまうのだ

まず最初に登場人物の名前とポジションを大急ぎで頭に叩き込まないと会話が解らなくなってくる。サーカスのメンバーにはTinker,Tailor, Soldier等コードネームがついていて、劇中では本名で呼ばれたりコードネームで話したりしているので、頭をクリアにしておかないと混乱する。台詞にも無駄がないし、1カットにヒントがあるんじゃないかと思うと途中で何度も「ちょっと!そこ巻き戻して」と言いたくなるのだ。ソ連サイド、アメリカサイドからも人物関係が絡んでくるので、途中からはもう必死で観たという感じ

それでいて最期の方ではその緊張感から一気に静かな空気になる。モグラが誰か解ってからは各々の心理にもカットが当てられ、それがダダ〜〜!と駆け抜けた2時間からフッと人間描写になって静かに終る

なんといっても役者が素晴らしいよ!サーカスのメンバーには英国/米国の役者が混じっているのだけれど、ごめんなさい、完全にイギリスチームの勝ちです。スマイリーのギャリーは抑えてニヒル。それでいて「いつの間にこんなに年とってたの」と思う額の皺がそれでも色気があるのは凄い。ハリー・ポッターのシリウスもカッコ良かったけれど、こんな味のある役もすごく良い。コリン・ファースは品の良さと重量感をしっかり出しているし、プリデュー役のマーク・ストロング、リッキー役のトム・ハーディーはちょっと癖のある役者でしかも巧い。(トム・ハーディーがテレビシリーズの「嵐が丘」で演じたヒースクリフはすっごく良かった!)ちょっとしか出ないジョン・ハートもギャリーとの画面での相性が良いっていうか、とても魅力的に印象に残る。

渋い! とにかくおじさん達が渋いのだ。おじさん達が魅力的

その中で一人ちょっと若くてスピード感抜群なのがピーター・ギラム役のカンバーバッチ氏だ。彼はBBCの新しいシャーロック・ホームズでちょっと偏屈な現代版シャーロックを素晴らしくキレの良いスピード感で演じていたし、舞台の「フランケンシュタイン」で怪物と博士の両役を2人の役者で交互に演じてローレンス・オリビエ賞にノミネートされていた。先週発表だったオリビエ賞では競演のジョニー・リー・ミラーと共にダブルで最優秀男優賞をとった。(舞台についてはこちらに書きました)この役でもちょっと他のおじさん達とは違う空気をもっていつでも颯爽と出て来る。ハンサムっていうわけじゃないのに目が離せない不思議な雰囲気を持っている。

どうやら日本は封切りになったばかりのようなのでネタバレはしませんが、2度観たくなる映画です

実際この本は79年にテレビでドラマ化され、アレック・ギネスのスマイリーで4話シリーズで放映されたそう。観終わってなんだかすごい超特急だったような気がして、もうちょっと細部までゆっくり把握しようと思ってこのシリーズのDVDをレンタルした。このテレビ版もかなりの好評で観始めたのだけれど、、、あの緊張感と高揚感が無くなってしまっている。確かにストーリーの繋ぎは解り易く描かれているけれど、なんだか遅いと感じてしまう。おじさん達は、演技は良いのだけれどなんだかくたびれたカンジ。カメラワークも良いし、映画版ではしょられた部分がもっといろんなカットで撮られているのだけれど、逆に輝きが無いと言えばいいのか・・・? 途中で退屈になってしまって観るのをやめた。

というわけで、テレビシリーズは置いておいてもう一度映画を観よう!無駄を一切省いたインテリジェントな映画って好きだなあ〜〜、、、頭使うけど