30年・・・、そう、このミュージカルの舞台を観るのに30年待った。「Pippin=ピピン」です!

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スティーヴン・シュワルツ(Stephen Schwartz)のPippinは、ボブ・フォッシーの演出/振り付けで1972年にブロードウェイで初演された。2000上演近いヒット作になり、トニー賞はじめいくつもの賞を穫ったにもかかわらず再演はあまりされず、ほとんど忘れられたミュージカルに数えられていた。今ではオリジナルのセクシーでちょっとエロティックな部分はほとんど省略されて、逆に子供が楽しめるアマチュアヴァージョンが各地の学校の学園祭等で上演される事が多いので、ロイド・ウェバー氏の「Joseph•••」のようなファミリーミュージカルだと思っている人も多いらしい

個人的にとても思い入れのあるミュージカルだ。 というのも劇団時代、何故かこれからの上演予定作品の中にこのミュージカルが入っていた時期があったからだ。制作上の事はよく覚えていないけれど、きっと当時は上演権を取ってあったのだろう。ミュージカル概論の講義でストーリー/舞台構成を聞き、ブロードウェイ版のサントラを何度も聞いては歌っていた

その後、ブロードウェイでのステージを映画用に撮影した舞台映画版を観て、ボブ・フォッシーの振り付けにハマった。JazzyでSexyなダンスシーンと、色鮮やかな コスチュームの舞台。ボブ・フォッシーといえば代表されるのが、「キャバレー」や「シカゴ」の振り付け。帽子やステッキを巧みに使ったセクシーな振り付けで、ちょっとダークで危険な香りを醸し出す。子供向けミュージカルにもなりがちなストーリーが大人向けになっているのは、彼の振り付け/演出による。この映画版は最近になってYoutubeにも上がっているのを見つけた。各歌を中心に場面毎に別れているけれど観る事ができる。物語のキーになっている曲、人生の意義を探す決意をするピピンの歌=Corner of the Skyこちら

ストーリー

舞台はリードして行く狂言回しの役割をする役者が各場面を取り仕切る形で進んで行く。ローマ帝国を支配するシャーメイン国王の王子、ピピンは品行方正、学業優秀で教育期間を終了する。父には色仕掛けで王の寵愛をつなぎ止めている後妻のファストラーダと彼女の連れ子(弟)でお馬鹿だけれどやる気満々の戦士=ルイスがいる。これからの身の振りかたについて、彼は「人生の真の意味を探しに、何か特別な大いなる物=extraordinaryを見つけに行きます」と宣言する。
ところが戦争に参加して勝利を収めても、流されたおびただしい血に手をそめて恐れおののき、沢山の女達との性愛にふけっても愛の無い情事にピピンの心は満たされない。彼の心は相変わらずEmpty and Vacant。ピピンは継母のファストラーダと折り合いが悪くて隠居している祖母、バーサに会いに行く。ピピンはバーサから、「考え過ぎちゃ駄目、自然の成り行きに任せて人生を楽しんで生きることさ。」と励まされ、もう少し力を抜いて生きてみようと思う。
やがて父王の政策が段々暴挙を帯びて来ると、ピピンは父に反抗して革命を企て、父を殺害して王位に就く。しかし、自分が王になってみると事は思うようには運ばず、結局は父がとったような暴君政治になりつつある事に気付いたピピンは、ここで芝居を止めて、リードアクターに父を生き返らせてストーリーを修正してくれと頼む。かくして自分が王になる前に話は戻り、ピピンはさらに人生特別な意義(extraordinary)を探して芸術や宗教といろいろ試すが、相変わらず心は満たされず、とうとう道に行き倒れてしまう。
倒れていたピピンを助けて世話をしたのが未亡人のキャサリン。彼女にはテオという息子がいて、典型的な田舎の農家暮らしだ。キャサリンとテオの家で、ピピンは初めて平民の平凡な生活を送る。やがてキャサリンと愛し合うようになるが、次第に乳搾りや死にかけのアヒルのために祈るような日々をとてつもなく退屈だと思い始めたピピンは、心傷ついたキャサリンを置いて家を出る。
この後はフィナーレに向かって行く。リードアクターやアンサンブルの役者達にあおり立てられて、ピピンは壮大で目を見張るような劇的な最終場面を演じようとするのだが、結局は自分の心が一番安らいだのはキャサリンの側にいた時間だったのだと悟る。あれほどExtraordinaryを求めたピピンが、最期には音楽も証明も無くなった舞台で、キャサリンとテオと抱き合って歩き始める。
そして空っぽになった舞台に再びテオが戻って来て、静かにCorner of the skyを歌う。今度は彼が人生に何かを求めて旅立つのか・・・?


今回の舞台は物語そのものをコンピュータービデオゲームの中の世界、という全く新しい設定にしている。まあそれは無理もない。1972年のアメリカと今とでは社会状況が全く違う。人生の希望に満ちた無垢な青年が自分探しの旅に出る、なんて話はこの夏に街中を荒し回った今時のティーンエージャーには通用しないからね。でもこのビデオゲームという設定が巧くハマっている

会場に入る前の通路はオタクっぽい男の子の部屋になっていて、ピピン役の役者がPCに向かっている。 そのゲームの中が会場という設定だ。このメニエール・チョコレート・ファクトリーは、昔チョコレート工場だった建物をスタジオシアターに改造したもので、客席だって180あるかないかだ。セットはシンプルだけれど、ビデオスクリーンをふんだんに使っている。各場面がレベル1レベル2とゲームのように設定されていて、はじめの人物紹介から、戦争をクリアしたら女性遍歴、次のレベルは革命、権力、、というようにゲームの中でストーリーが展開して行く。女性達との遍歴のシーンはセクシーなダンスシーンと同時に出会いサイトやエロサイトの映像が使われ、父のシャーメインを生き返らせるシーンは前のレベルに戻ってやり直し、という手法だ。 

特筆すべきは、ビデオゲームという設定にした事で話の古さを感じさせない事と、嬉しい事に随所にオリジナルのボブ・フォッシーの振り付けを再現している事だ。これはわざわざニューヨークから、かつてフォッシーの助手だった振り付け師を招いて、ダンサー達にブートキャンプが開かれたそうだ。 

リードアクター役はブロードウェイでのベン・ベリーンのイメージが強かったのでどうかと思ったけれど、今回の人もなかなか良かった。 ロックシンガーっぽいタイプで、エヴィータのチェ役も良いかな。私の一番のお目当ては、ファストラーダ役のフランセス・ラッフェル(Frances Ruffell)。彼女はレ・ミゼラブルのオリジナルでエポニーヌを演じた人で、私の大〜〜好きな女優さんだ。(彼女についてはこちらにも書きました。)小柄ながらハスキーな声とコケティッシュな魅力。47歳のはずだけど、ダンスシーンでは見事にスプリッツを見せてくれます!!歌唱力は言うに及ばず

もう一人、バーサを演じたルイーズ・ゴールドも素晴らしかった
 何といってもチャーミング。彼女のシーンは観客を巻き込んで皆で歌うという状況にもっていかなくてはならないので、引っ張る力がないとついていけない。出て来た瞬間に観客が彼女を好きになってしまわないと成り立たないのだ。このシーン(レベル)はポカポカと太陽の暖かさを感じるような場面だった。もちろん皆でNo time at allを大合唱してきた。

主役のピピンはもっと小柄で線の細いイメージだった。少年の面影を残したウブな感じ、、?でも今回のHarry Heppleはなんだか健康そうな大人に近い青年で、ちょっとイメージと違ったかな、でもオタクっぽい現代風の若者という感じはする。そして歌声がとても綺麗だ。う〜ん、、最終的に歌でオーディションに勝ったっていう感じだったのかなあ〜。実はテオ役の役者がピピンの アンダースタディーにクレジットされているけれど、彼が最期に歌うCorner of the Skyの一節もソフトな声だった。私としては彼のピピンを観てみたいかも

子供連れで来ていた人もいたけれど、最初に書いたように元々このミュージカルは子供向けじゃない。それを知らなくて、学校演劇のイメージで観に来た人はちょっと度肝を抜かれたかもね。 この芝居は好き嫌いがあると思う。このメニエールはリバイバルもののミュージカルには定評があって、ここで大ヒットして大きな劇場に移った作品がいくつもある。でもピピンはここ(小スタジオ)でヒットしてウェストエンドで再演っていうパターンまでは行かないように思なあ、、、

でも個人的にはとても思い入れのあった作品なのでやっと観られてよかった。しかもフランセスが出ていたのはボーナス!ボブ・フォッシーの振り付けも、当時のアシスタントやダンサー達によってかなり保存されている。演出によって変わるのが舞台ではあるけれど、やはりダンスの振り付けも一つの芸術作品。作品として保存していくべきだよね

観られて良かった。楽しかったよ