バービカンでの「ムサシ」を観に行って来た
Musashi-006
(写真はThe Guardian紙より)

水曜日から土曜日までの限定公演という事で、金曜と楽日の土曜日を避けた。ちなみに初日のプレスナイトでのレビューは主立った新聞では揃って星4つ。蜷川さんの舞台では星4つというのは結構定番なので、今回も成功だ。(追記→The Independent紙は星5付けてる!

ちなみにこっちでのレビューの星数というのは、期待はずれが1つ、もう一息欲しいというあたりで2つ、評価として良ければ3つ、高い評価でお薦め級が星4つ。5つというのはもう文句無しの大絶賛で、ソールドアウト=ロングラン間違い無しという感じだ。だから星4つというのはかなり良いレビューなのだ。でもいつもの蜷川さんのカラフルで見栄えのする舞台とはちょっと違って派手さのない、悪く言えば地味な作り。前の「天保十二年のシェイクスピア」があまりに奇抜で華やかだったせだろうか。

実は去年の「ムサシ」のDVDを送ってもらっていたのだけれど、この舞台までわざと観ないでいた。だから全く余計な知識も先入観も無い状態で観られた。ちなみに私は宮本武蔵の事なんて知らない。かろうじて知っているのは、巌流島(船島)での佐々木小次郎との決闘にわざと遅れて行き、小次郎が「遅いぞ武蔵!」と言って刀の鞘を投げ捨てたのを見て、武蔵は「小次郎、破れたり!」というなりそのまま決闘に勝ってしまった、という事。それだけしか知らない。(恥ずかしながら・・・)

耳にしていた「復讐の連鎖を断ち切る」というメッセージは実はあまり響いて来なかった。それよりも「生きていてこそ」「命ある今を」という声のほうが届いて来た。そうだよね、井上さん自身、やり残した事を悔いながら亡くなったに違いないのだから・・・

そもそも9/11事件以降のテロに関しての「復讐の連鎖」という感覚は、なんだか日本だけで空回りしているような気がする。自分達の主張のためには戦うという事を第一に考える諸外国の人達に、「復讐を忘れて平和を、、」という日本独特の考えは通じない。いや、日本ではなくてこれは仏教的考えか

井上ひさしさんが最期まで病床で台本の手直しをされていたという。そのせいだろうか、思っていたよりシンプルで暖かいものを感じた。一場からの舞台転換は素晴らしい! 今回は転換は最初と最期にしかなかったからここは視覚的な見せ場。初演版から30分削ったという事だったけれど、これからDVDを見てみますかね。

圧倒的に台詞の多い勝地涼君は頑張っていた。彼もキャリア的にはベテランなんだよね。実は幕が開いて最初の彼の台詞がちゃんと聞き取れなくて「えっっ!!?」という出だしだったからおばさんは心配したのだけれど、緊張してたのかな、後は声も通ってたし。藤原竜也君はやっぱり舞台での立ち姿にオーラがある。台詞がなくても無言で殺気を出せるのは演技力じゃないんだよね。ただ、彼の持つ輝きが無かった感が否めない。オーラもちょっとくすみがちというか、、、 後で友人と電話で話していて「風邪ひいてるんじゃない?」の一言、う〜ん、そうかも・・・?

そうだなあ〜、、、竜也君は声がもっと響くといいんだけどな〜。ちゃんと聞こえるし、潰してるわけじゃないんだろうけど、低い声になると声が鳴らない。共鳴腔の使い方かな〜。いろんな声がもっと身体内で響く音だと台詞にメリハリと太さが出るだろうな、、、

鈴木杏ちゃんがとっても舞台向きの役者になったなあ〜とちょっと見ほれる。良い意味で小顔じゃないし、目も大きいから表情がとても豊かだ。声も艶のある通る声で綺麗に聞こえた。 ベテラン勢はもう安心してお任せしておける。チームとしてとても良いカンパニーだ。皆が個性的でそれでいて無駄もなくしっかり繋がってる。

きっと日本だともっと笑うんだろうね。でも英語字幕が台詞の約3分の一くらいしか入らないから仕方ないか。「タコ」の場面で私は爆笑したかったんだけど、回りが笑っていいのかためらってる空気だった。白石さんを観てるともう吹き出す寸前なのに、「この一生懸命やってる場面で笑っていいのだろうか」というどっちだろう?の戸惑い・・・そのせいか(なかなか笑いが来なかったせいか)、あの場面はどんどんエスカレートしてしまって、ちょっとヤリ過ぎな感じもした

でも井上さんの本だから当然笑って良いのだ五人六脚以降はさすがに笑いが止まず、それからはちょっとした台詞にも笑いが起きた。英字幕も短い中にもツボは押さえていて、なかなか巧く伝えている。最期の展開は予想外だった。ああいうオチになるとは・・・

カーテンコールではスタディングオベーションだったね。芝居そのものとしては立ち上がるほどの衝動は起きなかったけれど、でも観終わってなんだか不思議と暖かい気持ちを送りたくなった。これは不思議な感覚。称賛するというより、こちらの気持ちを拍手で送りたくなった。全員がとても丁寧に大切に演じているのが伝わったきたから。

DSC00462スタンディングになったのは日本のお客さんが多かったせいもあるかも・・・(日本の観客はスタンディングするのが好きらしい)多かったよねえ〜日本人のお客さん、って当たり前か。でも2度目のカーテンコールでは蜷川さんも竜也君に引っ張られて拍手を受けていた。私も今回は井上ひさしさんとこのカンパニーに敬意を表して立って拍手してきた。そうそう、今回のプログラム(英語版)が充実していて嬉しかった。

休みもあと今日一日。あっという間だねえ〜〜。昨日の帰りは、本来ならバービカンから2つ目の駅Liverpool Streetからうちまで電車1本で簡単なのに、なんと!夜10時半以降はエンジニアワークということで、バスの代行運送になっていた。延々とバスに揺られて家に着いたら12時15分。やれやれでしたわ・・・