昨年    NYで5部門のトニー賞に輝いたブロードウェイ・ミュージカル、「The Drowsy Chaperone =ドラウジー・シャペロン」を観て来た。やっぱりミュージカルは楽しいのが一番!それがエンターテイメントの原点よね。

実は私が読んだ初日レビューはあまり良くなかったので、ちょっと気掛かりだったのです。「ストーリーが無い」「大スターのエレイン・ペイジがやる程の役じゃない」等書かれていて、内心どんなもんかなあ〜と思ってたのです。 さらに、調べてみるとミュージカルなのに休憩無しの1時間45分という超小振り、それでいてチケットのトッププライスは£55-00と最高級。 さらに、早々と8月初めに幕を降ろす事が決ってしまい、興行的にはロンドンでは「失敗」という事。

でもまあ私はCats やEvita で大スターになったエレイン・ペイジがすごく好きなので、彼女の久しぶりの舞台ならそれに£55-00払う覚悟を決めて行ってきました。

ストーリーは、殆どありません。
舞台はミュージカルが大好きというちょっとオタクな男が進行役になって私達とステージとの橋渡しをする。場所は彼のアパート、どうみても一人暮らしで、いかにも彼女なんていなさそう・・・ おじいさんが着るような、お尻まで隠れる長めのよれよれカーディガンを着たこのミュージカルオタクは、お母さんが遠い昔にくれたという、1920年ミュージカルのいわゆるサントラ版を繰り返し聞くのが楽しくて仕方ないというヘンな奴だ。 古いレコード(今や死語?)を大事そうにプレーヤーに乗せ、針を落とす。

男は客席の私達に向かってあれこれとミュージカルのうんちくを語る。それがまさに今舞台を観ている私達の状況を言い当てていて、妙におかしい。レコードから音楽が流れ、彼のオタクな解説が始まると共に、アパート内部がミュージカルの舞台に変貌していく。あっという間に私達は「The Drowsy Chaperone」というミュージカルの世界に入ってしまうのだ。

おかしいのは、この男はこの芝居を観た事が無いという。知っているのはこの古いレコードに入った曲の数々と、そこから推測される単純なストーリーのみだ。つまり、私達が観ているこのミュージカルは、いつもこのオタク男が頭の中で作り上げている夢の世界、想像のミュージカルなのだ。

人気のショウガールが、真面目な男と恋に落ちて結婚するというその当日。彼女は彼を愛しているものの、自分が手にしていた華やかな人気女優としての暮らしを捨て去っても本当に悔いがないのか、後悔しない程彼にちゃんと愛されているか不安を拭いきれていない。また、彼女のショウのプロデューサーは、本当は彼女に辞めてもらっては困るので、密かにこの結婚をブチ壊す事はできないかと画 策する。あとは大袈裟なコメディーであちこちで勘違いやラブロマンスが発生する、、、、

とにかくみんな全ての役が大袈裟!
それがまた歌やダンスの幅になって、技術のレベルが大袈裟加減に負けていない。だから進行するにつれて、どんどんレベルアップするし、ヒートアップする。 オタク男は、「それでね、」「ここでね、、」といかにもこのミュージカルが大好きといった興奮ぶりで、私達観客を舞台の世界に巻き込んで行く。(ちょっとウザイのがリアルで笑える)
楽しい歌、ノリノリのダンス、ウィットな台詞の連続で、2時間まさに笑いっぱなし。皺が200本位増えたかも・・・ 台詞の中身はロンドン公演用にちゃんとアレンジしてある。

ロイド・ウェバーのような高尚なステージでもなく、心揺さぶられるドラマチックなストーリーでもないけれど、とにかく、とにかく「楽しい! 結婚式当日の話とあって、ちょっと結婚に対するシニカルな分析もあったりして、思わず「そうそう、、」とうなずきながら笑ってしまう。ちなみにこのオタク男、実は以前結婚していたという事が劇中で判明するのだけれど・・・

休憩無しの2時間弱というのは、観客を引き付けておくギリギリで成功してる。短い中にもちゃんとトーンのメリハリがあって、退屈しない。やっぱりね、ミュージカルの原点は、「楽しい」っていう事。 最近のテロの事も、今日仕事であった嫌な事も、降ったりやんだりの雨ばっかりで帰りが心配な事も、ぜーんぶ忘れて、2時間が幸せならそれで良いじゃない!?っていう気分にさせてくれた。

エレイン・ペイジは確かに大型ミュージカルの時のような単独主役では無いけれど、彼女の舞台での歌はやっぱり絶品!カンパニーでの芝居だからこそ、本当に技術のある人達がちゃんと演じないと、中途半端じゃ成立しない。一流レベルが、遊び感覚で大袈裟に歌い躍るからこそ「夢のような空間」が創れる・・・・オタク男のアパートが、ほんの2時間の間は夢のステージを繰り広げる劇場になるのだ。

カーテンコールで立ち上がったのは何年振りだろう・・・?
良かった」だけじゃ立ち上がれない。「楽しかった」でも「素晴らしかった」でも、ほとんど立ち上がるまではいかない、、、
何だろう、、立ち上がって拍手する時っていうのは、「脱帽の念」とか「深い敬意」とか、そういったものが自然と立ち上がらせるんだよね〜・・・今日は立ち上がりました、理屈抜きで

2時間で£55-00なのも納得。衣装も装置も贅沢!金かかってるよ〜!! 衣装が一番お金かかってるんじゃないかなあ〜 こんなに小さなカンパニーなのに。 劇場は最近改名されたNovello Theatre。102年前に建てられて、以前はStrandの名称だったこの劇場は横25列の小さな劇場だけど、ぴったりだった。早々に幕を閉じる事が決まっちゃったのは残念だけど、「楽しければ、幸せじゃない?!」っていうミュージカルの醍醐味を堪能できた2時間でした!!

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