久しぶりでダンスを観てきた。マシュー・ボーンの去年の作品「ドリアン・グレイ 去年エジンバラ・フェスティバルの後にロンドン公演があったのだけれど期間が短くて見逃していた。ダンスパフォーマンスの公演はアダム・クーパーの「危険な関係」以来だなあ〜・・・

思いっきりホモセクシャルバイセクシャルで、ナルシスト成り上がりセレブですな・・・ マシュー・ボーン氏がゲイなのは良く知られているし、今までの作品でもそれはすぐに解るのだけれど、それでもどこかダンス芸術のオブラートにしっかり包まれていて、それが彼の振り付けを特殊なものにしていた。でも今回の作品はとてもそれがアカラサマに展開する。主役のドリアンは全幕の半分を下着のパンツ一枚で踊っている。(身体は素晴らしいですよ、、彼だけでなく出演ダンサーみんな

オスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」は、快楽主義思想のサー・ヘンリーの言葉をはじめ、数々の名言が登場するが、ダンスには言葉はいっさい無いので、純粋に無垢な美貌の青年が名声に浮かれて快楽に溺れて破滅していく様子を追っている。タイトルも「Dorian Gray」だけ。マシュー版では、ドリアンの美貌に魅せられて彼の肖像画を描くバジルは、ファッション界のカメラマンに、そしてドリアンを数々の悪の快楽に引き込むサー・ヘンリーはモデル/広告エージェントの女ボス(レディー・H)に変わっている。原作の影の主役=肖像画はファッション界の広告ポスターに、そして時折ドリアンの裏の心を象徴するかのように瓜二つのドッペルゲンガーが登場する。最期はこのドッペルゲンガーとの対決になるのだけれど、これは前に書いた「世にも怪奇な物語」の2作目=アラン・ドロンの「ウィリアム・ウィルソン」と同じ手法だ。(2008年11月9日のブログ)

マシュー版でのドリアンは、ファッション界のモデルとしてインスタント・セレブになる。セレブの仲間入りをしてからの彼は男とも女とも奔放に交わり、お酒や薬に溺れていく。ポスター用の撮影シーンの男性同士のパ・ド・ドウ(ドリアンとバジル)が思いっきりホモエロティック! セクシーな絡みのダンスにシャッターの音が響いて、その度に正面にドリアンの妖しい表情の写真が次々と映る・・・いや〜〜、これって三島由紀夫の世界だわよ、絶対。ゲイのお客さん達はおそらく悶絶した事でしょう。それにしても本当に見事なまでの身体のコントロール。呼吸さえも・・・普通はダンサー達は踊っている時はどんなに息切れがしていてもそれを出さないものだけど、このシーンでは二人のダンサーの吐く荒い呼吸音が聞こえて来る(多分わざとそういう演出なんだろうね)

1幕はかなりホモセクシャル色が強かったけど、オリジナルのワイルドの小説があまり露骨に表現できなかった分の元を取ってたかも。2幕の方がテンポもよくて、ポップでいてさらに感情的な変化もあって面白かった

振り付けとしては「Play without words」で登場したスタイルと同じ路線かな。そこへ「Swan Lake」の情熱的な感情表現が加わったカンジ。ダンスという肉体表現はもちろんの事、表情による感情表現もとても強くて、元々シャイな青年が成金的にファッション界のスターになって自分を見失って行く様がリアルに表現されている。身体の隅々まで神経の届かない部分が全くない。一瞬の気を抜くヒマもない振りの連続だ。スローモーションの軽やかさ、一瞬のストップモーション、マシュー・ボーンの振り付けは、人間の身体をどう組み合わせたらこんな形=絵になるのか・・・というほとんど幾何学的なアートと言っていいかも。鬼才とはよく言った、、、、

ドリアン役のリチャード・ウィンザー(Richard Winsor)は、出てきた時から「どっかで観た、、、」とず〜っと思っていたら、、、数年前に藤原竜也君の「ロンドン紀行」の番組の中で、「Play without words」の出演者と話す機会をつくってもらった時の、あのダンサーの一人だった。あの頃は竜也君と「同じ年だ〜」なんて言っててまだ若かったけれど、とても逞しくなってすっかり主役ダンサーの貫禄だ。シャイではにかんだような表情と、相手を惑わすの力をもった悪の表情がどっちも良い

幕間にプログラムを見ていてふと顔をあげると、ストール席すぐ横のギャラリー席にマシュー・ボーン氏が座っている。皆知っててスルーしてたけど、2−3人が静かに近寄って声をかけて、マシューさん「Thank you, Thank you very much,,,」とにこやかに答えていた。2幕もずっと厳しい(?)顔で舞台を見つめていて、あんな近い所にいられたらステージ上のダンサー達は手を抜くわけにいかないね・・・ 舞台上で視界に演出家や振付家の姿が入るのってすごくヤなんだよねえ・・・・でもカーテンコールでは全員にしっかりと拍手を送っていました。

そういえば同じ「ドリアン・グレイの肖像」の新しい映画が9月に封切られる。こちらもタイトルは「Dorian Gray」だ。ドリアンを演じるのはナルニアのカスピアン王子=ベン・バーンズ(Ben Barnes)。舞台のHistory boysから3年でインターナショナルに知られるようになった彼がこの役を演じるのは面白い。若くてハンサムで今旬の俳優、とくればドリアン役にはタイムリーなキャスティング。実はこのベン・バーンズ君も、の魅力を表現できる役者だと思う。悪い奴になった時の表情が、きっと良い顔をするんだよね・・・こちらも楽しみだ


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