いや〜〜、しつこいのなんのって!!
今回の風邪、丸2週間も経つのにまだくすぶってる・・・熱が出たわけでもないのに、体力消耗で毎日帰宅後はソファーで布団かぶってカウチポテト。おかげで、最近あんまり観なかったテレビを観っぱなし。ネットしてるとテレビを観ないし、テレビの前で寝そべってるとネットをしない・・・というわけで、あっという間の1週間だった。
それでも風邪をおして観てきました「The Tempest」。
シェイクスピアの最期の戯曲とされているこの作品は、本でも読んでたし映画版では観た事あったけれど、実は舞台で観たのは始めてだ。Ralph Fiennes=レイフ・ファインズのプロスペローは楽しみにしていた。シェクスピア劇もいろんなパターンの演出があって、すっかり現代風の衣装やセットになっていたり、逆にセットらしいものに凝らずに空間劇にしてみたり、とプロダクションによって様々だけれど、私としてはやっぱりオリジナルの時代背景をなるべく壊さない演出が好きだ。
今回の演出はシェイクスピア演出の大御所=トレバー・ナン氏なので、オーソドックスなものになるだろうとは思っていたけれど、すごく丁度良い感じ。というのは、重厚過ぎず、それでいて魔法のくだりも大仕掛けでなく、自然に入っていける。このHaymarketという劇場は奥行きが深い。宙づりやリボンアクロバットを多く使って、仕掛けによる壮大さよりもダンサー達の身体の動きで魔法を表現する演出は芝居を観客の手から離れてしまわない距離に留めている
以前観た「The Road of the Rings」なんかは大掛かりな特殊効果/仕掛けで完全に舞台をスペクタクルなものにしてしまっていたけれど、シェイクスピアの時代の泥臭さを残しているあたりがトレバー・ナンらしい。実際シェイクスピアの時代に演じられた時は今のような舞台仕掛けは無かっただろうから、様々な魔法の場面も観客のイマジネーションによる所が大きかったのだろう。ポエティックな台詞はそのイマジネーションを呼び起こすために書かれたのだから、、、
弟の裏切りによってミラノを追われた元大公のプロスペローは、かろうじて流れ着いた無人島で娘と暮らしながら、魔術の研究をしている。12年後、ナポリ王=アロンソや自分を追放して大公の座に付いた弟=アントーニオ達を乗せた船が航海中と知ると、空気を司る妖精アリエルを使って大嵐を起こさせる。遭難した船からバラバラに島に辿り着いた一行は、陰謀、恋、反逆を企てながら、アリエルや、以前に島を支配していた魔女の息子のキャリバンの導きで、やがてプロスペローの元へ集まってくる事になる。
この一行のグループ分けが、アロンソ、アントーニオ達の暗殺/地位略奪計画組、アロンソの息子=ナポリ王子のフェルディナンドとプロスペローの娘=ミランダの恋物語、キャリバンの、道化達をそそのかしてのプロスペローへの復讐という3つのプロットが交互に進行していく。最期にはプロスペローは弟達を許し、娘とフェルディナンドとの結婚を祝福し、観客の拍手によって魂の呪縛から解き放たれていく。
この時代、魔術や呪術といったものは危険な存在だった。魔法術を研究しているだけでも逮捕されたり死刑になったりしたというのに、この芝居では生身の人間であるプロスペローが学問として身につけた魔術を大っぴらに使っている。妖精のアリエルを忠実な下僕とし、魔女の息子で元々はプロスペローに魔法を教えたキャリバンを奴隷として支配している。それでも芝居はあくまでもロマンティックコメディーで、プロスペローの使う魔法も決して悪魔的なものではない。研究家達の中には、このテンペストという芝居には裏の隠された意図やメッセージがあり、シェイクスピアが秘密結社のメンバーだったという説がまことしやかにささやかれている。それでもこのマジカルな世界をあくまでも人間的なものに創り上げたシャイクスピアの手腕はさすがだ。
妖精やマジシャンならなんでもできそうなのに、アリエルもキャリバンもプロスペローの支配下にいる。それでいてボスに不満を持つ平社員よろしく、陰でぶつぶつと不満もたれているのだ。今までの人生で生身の人間は父とキャラバンしか見た事がないミランダは、若くハンサムな王子フェルディナンドと出会うなりあっという間に恋に落ちてしまう。道化が登場するコミックシーンだけでなく、随所にユーモアが溢れていて、おどろおどろしさは全く無い。
50代に入ったRalph Fiennesのプロスペローは思ったよりも土臭くて温かみがあった。若い頃の彼は金髪とガラスのような青い目がどことなく冷えた感じを出していたのだけれど、最近は深みが出て来たなあ〜〜。長年の孤島での暮らしでボロボロではあるけれど、それでも前ミラノ大公というノーブルな気品をちゃんと保っている。魔術を研究/信仰する中でも人として/父として地に足が付いているのだ。
レイフはこの前に観た「The god of Carnage」では現代の仕事マンだったけれど、彼はちょっと重い役が似合う。オイディプスも凄く良かったし、やっぱり彼の声は劇場で聴くのがいいなあ〜。彼の舞台声がとても好きなので・・・これは映画じゃ解らない。
余談ですが、The god of Carnage、ローマン・ポランスキー監督で映画になったそうで、もうすぐ公開。ケイト・ウィンスレットとジョディー・フォスターが母親2人をやってるそうな。映画版のタイトルはCarnageだそう。数日前にケイトがインタビュー番組に出ていてクリップも紹介されたけど、う〜〜ん、アメリカン・コメディー路線になっちゃったのかなあ??ポランスキー監督は大好きなんだけど、ちょっと印象が違ったような・・・
テンペストは本当はもっと上演されてもいいんじゃないかって思う。こんなに面白い芝居だったんだ・・・というのが率直な感想。もっといろんなヴァージョンが観てみたい。役柄もバラエティーに富んでるからどのシーンも飽きがこないしね。役者としてはどの役でもやり甲斐があると思う。若手もベテランも揃って楽しめるはず。このプロダクションでは妖精にダンサーを数名投入して躍動感を出していたけれど、シェイクスピアという人はやっぱり役者を愛して芝居を書いた人なんだなあ〜・・・。