今月テレビ放映された二つのショー、高橋大輔さんプロデュースの「Ice explosion」と浅田真央さんの新しいショー「Beyond」。

同時期に世界のトップとして活躍し、引退するにあたって二人ともショーを創りたい、アイスリンクを造りたい と夢を語っていたのはほんの数年前。大輔さんの「氷艶」は初作が歌舞伎との融合、2作目は光源氏、3作目の「Luxe」と氷上の舞台芸術を切り開いている。そして今年のアイス・エクスプロージョンは映像で見ただけでも「凄さ」を感じるものだった。

昔から、私の中の評価基準に「心が揺さぶられる」というのがある。胸がザワザワとしてくるような感じを呼び起こされる物。 実は滅多には出会わない。芝居でもコンサートでも、「よかった、楽しかった、興奮した」というのはよくあるけれど、胸が揺さぶられるような感覚というのは、なかなか体験できるものではない。だから、そういうものに出会った時は、感動して心が震えるのだ。

テレビ放送では一時間分しかなかったので、実際のショーの半分もあったのだろうか、、、?でも、それでもオープニングから最後まで息をつくのも忘れるほどにのめり込んで観ていたのだった。今はまだ現役のアイスダンサーとして世界大会にも出場している合間を縫ってのショーだったから、プロデュースをするのは大変だったと思う。でも大輔氏の目指すアイスショーの未来が垣間見える。彼の持つ世界観、そして今までの経験からも学んだと思われる、まさに「舞台芸術」としてのショーのあり方にこれからの新しいアイスショー時代に期待せずにはいられない。
とにかく素晴らしくレベルの高いショーだ。群舞やコラボも「そうきたか、、、」と唸ってしまう。
 
そしてもう一つこちらは舞台裏密着という形でテレビ放映された、浅田真央さんの新ショー「Beyond」。真央さん自らオーディションで選んだという10人でのショーは、企画から構成、衣装や演出を全て考えて作り上げたという。本来は去年の公演予定だったのがオミクロン株の拡大で大幅に遅れ、一時は開けるのかどうかわからないうちに真央さん自身もコロナに感染してしまったそうだ。

それでも開催が遅れた分、時間をかけて創り上げたショーは無事に9月から全国公演が始まっている。真央さんのスケートへの思いがつまったとてもレベルの高いショーに仕上がったようだ。この舞台裏番組を観ていると、自分が役者時代のことを思い出す。芝居を創る作業と本当に同じだからだ。文字が書かれただけの台本を一つの世界に作り上げ、そこに息を吹き込み、感情をのせ、ドラマを創る、そして感動を生む、この工程はまさに同じ。その途中には、様々な発想からの選択や意見の食い違い、細かい部分までの打ち合わせやスタッフと関わり、、、いろいろなことが最期まで「本当にこれでいいのか??」と疑問を投げながら進んでいく。真央さんの悩む姿が良くわかる、、、、

今まではゲストに世界的なスケーターを呼んで演技を披露していくスタイルだったアイスショーが、変わりつつある。世界のトップで活躍した日本選手達がこれからは自らプロデューサーになって新世界観の表情舞台を作っていく時代になったのだ、、、そう思うと本当に感無量!!長年フィギュアのファンでいて本当に良かった!

Ice Explosionの完全版の放映は3月という事で、もう今から早く見たくてたまらない。いつかお二人が話していたように、大輔さんと真央さんが一緒にショーに出ることも楽しみにしたい。一緒に作るのはお互いにぶつかりそうだから、どちらかのショーに出る、という形かな。それとも一大企画で共同プロデュースなんて日も来るのだろうか、、、??

お二人のアプローチは少し違う。真央さんのショーは本当に劇団のようなチームで、極上の芝居を全国に届けてくれるイメージがある。大輔さんのほうは壮大なイメージを表情空間に創る、ミュージカルのようなイメージ、、、 この二つに共通しているのは、出演者が必ずしも世界トップ選手に限らない、ということだ。もちろんトップ選手もいるのだけれど、「こんなに素敵なスケートをする選手がいる」ということを知名度にかかわらずキャストに入れてチームにしていることだ。

荒川静香さんの「Friends On Ice」には世界中の「元チャンピオン」が集結する。それは彼女の時代には、世界でトップでなければアイスショーに参加できなかったからだ。メダリストだからこその「友達の輪」で、荒川さん自身が金メダリストになったからこその顔ぶれだ。このレベルの高いショーは他のどのショーよりも豪華な顔ぶれが毎年揃う。そして大輔さん・真央さんに時代になり、自らのプロデュースだからこそ、有名・無名にかかわらずチムの一員にしたいスケーターをメンバーにすることができるようになったと言える。

どちらにしても、私も早く仕事を引退して日本に長くいられるようになったら是非実際のアイスショーに足を運びたい。