WOWOWで放映されていた野田地図の「Q ーA night at the Kabuki」 を観た。野田マップは本当に久しぶりだ。野田さんは以前ロンドンで「Red Deamon」や「The Bee」、「One Green Bottle」など小劇場での公演を何度もやっていたので結構観ていたのだけれど、野田マップとしての公演は本当に最期に観たのって「ロープ」?だったかも、、?

観始めるに当たってちょっと驚いたのが「結構長いな」という事だ。でも展開の早い野田さんの舞台のこと、グイグイ回転していくのだろうなと、、、。そしてタイトルに使われている「Q」はQueenの曲をフィーチャーして構成されているとのこと。それも彼らの4作目のアルバム、「A nihgt at the Opera」の曲で、、、

私はリアルタイムで筋金入りのQueenファンだ。来日公演には中学生だった76年から何度も行ったし、雨の中で出待ちしていた高校生の春、76年のときは雑誌撮影の様子をホテルの垣根の隙間から見ていたり、本当にQueenと一緒に青春時代を送った。初めて彼らの来日公演に行かれなかった83年の時は、私自身の劇団の舞台と重なったからだ。あの時は本当に不思議な気持ちだった。中学生の時から死ぬほど好きだった彼らのコンサートと、私の舞台が同時にあるという事が、、、(規模は大幅に違いすぎるが)

ストーリーは源平両家をロミオとジュリエットに重ねて、戦国時代の背景になっている。これはなかなかのアイデア。源頼朝の妹という設定のじゅりえと、平清盛の息子ということになっているローミオの悲恋がそのままシェイクスピアの芝居と重なる。けれどここに登場するのが30年後のローミオとじゅりえだ。実は生きていたこの二人が時間を超えて、過去の自分たちの運命を変えようと戻ってくる。前半は完全にロミオとジュリエットのストーリーを源氏と平家の目線でなぞってくのだが、30年後の二人はなんとか結末を変えようと要所要所に現れては軌道修正しようとするのだが、実はほぼ修正されずに進んでいくのが面白い。

相変わらずテンポの良い野田さんの本。日英の古典をうまく重ねて、お得意の言葉遊びも随所で光る。この辺りのセンスはさすがだな〜。言葉のつなぎ方が巧いよね。ただ、私としてはどうしても芝居がQueenの曲とうまく合わない。このA Night At The Operaというアルバムに入っている曲は本当にバラエティーに富んでいて、名曲「ボヘミアン•ラプソディー」はあまりにも有名だが、他にも知られざる名曲がいくつもある。B面の「The Prophet's song」なんかは、昔ダンスの振り付けに使おうかと思った事もあるし、短くてもストーリー性のある歌や、もちろん個人的な憎しみや愛情や、いろんな要素が詰まっている、このアルバムを芝居に使おうというアイデアは凄く良い。でも、一つ一つの曲を知りすぎている私には、どうしても目の前の芝居とこの45年前のアルバムとが重ならない。

芝居が面白く進むたびに、入ってくるQueenの曲がどうしてもしっくり収まらない感じが拭えないままに舞台が進んでいく。仕方がないので、自分の中で「これは転換の際の効果音楽」と思いながら観ることにした。Kabukiと謳っているのだが、これもそこまで歌舞伎らしい要素が重要とは思えず、普通に「芝居」で良かったとも思うのだが、野田さんにしてみると、このアルバムコンセプトと芝居に重なるものがあったのだろう。「やってみたくなる」のは演劇人の本能だ。

松たか子さんと上川隆也さんの「30年後のローミオとじゅりえ」そして、広瀬すずさんと志尊淳さんの若きロミオとジュリエット、このキャスティングはとても良い。広瀬さんはこれが初舞台だそうだ。声の使い方は確かに「苦しい」と感じる事もあったけれど、良い芝居をする人だ。ベテランの松さんと上川さんはもう安心して観ていられるし、アンサンブルのテンポも絶妙なので、野田さんの本を楽しめる。

後半は、生き残った二人のその後なのだが、やっぱり野田さんの本はお安いハッピーエンドにはならない。私はだから野田さんの芝居が好きだ。いつも現実を突きつけて、決してお安い結末にしない。結局はこの二人も墓場からは生き延びたものの、その後は2度と会える事なく、ローミオは名を捨てて戦に加わり、最果ての地で「俊寛」のように哀れに故郷を乞いながら死んでいく。輝くような青春を演じる広瀬・志尊コンビのキラキラした若さの恋と、熟年になっても変わらぬ愛を秘め続ける大人の二人の姿が美しく、悲しい。

若さには未来は見えていない。見えないないからこそ希望と、勢いと、無謀さがある。未来から見る過去は、美しく、辛く、暖かさと絶望が。敵味方の立場から「あなたの名前を捨てて」というジュリエットのセリフをここまで膨らませた芝居が出来上がるとは、流石に野田秀樹さんだ。乳母役もピッタリで、まだまだ体が動く役者でもある。竹中直人さんを舞台で見るのも本当に久しぶりでこれで2度目かなあ〜〜?テレビで見るよりも、ずっと良い役者だ。

Queenと歌舞伎は特にフィーチャーしなくても十分面白い舞台だ。Queenの曲でのステージ化といえば、昔、モーリス•ベジャールがモダンバレエを振り付けた素晴らしい舞台があった。歌詞を全て知り尽くしている私にとっては、それが芝居のセリフとぶつかってしまって違和感を感じてしまったけれど、それと気づかずに見ると結構馴染んでいたのかな、、、??

日本での芝居は本当に滅多にみられないのに、このコロナ騒ぎとネットサービスのおかげで、「日本にも危機感を告げるような芝居があるじゃないか」と思わせてくれる舞台を見られるのは本当に嬉しい。もちろん舞台は舞台で観てこそ、なのだが、何しろ世界的に劇場がほとんど開いていないのだから、舞台映像でも充分だ。