ロックダウンしてもうすぐ2ヶ月になる。劇場も映画館もロックダウンの前日にはもう閉まっていたから、新しいプロダクションは全て中止だ。そんな中、ロックダウンだからこそのウェブカメラで撮ったショート映画のような作品が出ている。

セットも作れないし場面転換も難しいとあれば、どうしても規模は限られる。今やネットの時代、会わなくてもパソコン一つで顔を見ながら話もできるし、録画もできる。私が子供の頃は「テレビ電話」というのがまさにSFの世界の出来事だったのだから、本当にこのコロナ騒ぎでの自粛が今の時代で良かったよ。

人気のスタジオシアター、Donmar warehouseが公開している一人芝居、「Midnight your time」の前宣伝が面白そうだったので観た。公開は5月20日までyoutubeにてフリーで観る事ができる。それ以降は有料になるのか、配信されなくなるのかはちょっと不明。Youtubeサイトはこちら


たった今ニューイヤーの乾杯をしました、といった様子のジュリーがビデオ通話を娘のヘレンにかけている。ヘレンは不在で仕方なくジュリーはビデオメッセージを吹き込んでいる。どうやらヘレンはパレスチナに住んでいて、設定も今から10年ほど前のようだ。最初のメッセージで「いないのね、まあいいわ、これ観たら連絡頂戴ね、」とごく普通の留守電メッセージを置いてほろ酔いのジュリーはベッドへ。
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次に映るのは、またしてもジュリーからヘレンへの留守電ビデオ。ヘレンが連絡をしてこないので気になっている。そして次のメッセージ、そしてまた次、、、とジュリーからヘレンへの一方通行のビデオが続く。どうやら二人はクリスマスに会った時に言い争いになってしまったらしい。娘のヘレンは何かと自分の人生に干渉してくる母親を相当「うざい」と思っている様子。実際ジュリーの話す内容から、彼女は元法律家で、仕事を辞めることになったのは意に反した状況だったようだ。今も地域での人権問題に意見したりや婦人会に顔を出して政治的発言をしたりしている、ちょっと押しの強い、干渉型の母親のようだ。

ヘレンは全く返信してこない。毎週木曜日に決まってジュリーはビデオメッセージを残すのだが、 娘は母親とのコミュニケーションを拒否している。ビデオのトーンは回を追う毎に変わっていく。始めは「元気でいてくれればいいのよ」と取り繕っていたものの、数週間のうちには娘の不通に怒り、苛立ちを隠せない。涙ながらに真夜中に連絡を乞う母の姿となり、、、、
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やがて、ジュリーはヘレンが自分でなく父親に通じて誕生日に本を送って欲しいと頼んでいた事を知って激怒する。どんな喧嘩だったのか、とにかく今の時代の親子のコミュニケーションの断切を、とても現実的に、それでいて感情的に見せていく。やっとヘレンがジュリーと話をするまで3ヶ月もかかるのだ。

演じているのはDiana Quickという女優一人で、演出はドンマーのMichael Longhurst。この芝居自体は2011年に舞台で演じられていて、だから設定がその頃なのだろう。それを今回配信用にリモートカメラで収録したそうだ。3ヶ月にわたる、母から娘へのビデオレターは、親子関係の現実や、母としての様々な感情の側面を見事に描いている。取り繕って笑う様子、イライラしながら見えない相手に愚痴る様子、絆を修復できない悲しさと寂しさ。さらには絶望感、そしてちょっと親の権限で脅してみたり、、、とたったの30分なのに盛りだくさんの芝居が観られる。

やっとのことでヘレンと会話した後のビデオで、別人のように生き生きとはしゃいで喋るジュリーは、愚かしくもまた元のお節介焼きで干渉家の母親に戻ってしまいそうな気配を見せて幕を閉じる、、、、
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モノローグ芝居と聞いたときは、ちょっと「飽きるかも、、?」と思ったのだが、30分の作品だというので観てみたら、もうずっと最後まで引き込まれてしまった。余計なセリフはなくても、聞いていれば自然と背景がわかる台本で、「ああ、そういうことか」と思いながらジュリーの心情についていくことができる。ダイアン•クイックのセリフ術は言わずもがな。舞台で観るよりこの方が良いのでは無いか、とさえ思う。

実は先週、NHKがリモート制作した3夜ドラマも観たのだけれど、1話目はなんとか観たものの、2話目からはなんだかもう観ていられなかった。同じウェブドラマでもこんなにクオリティーが違うのか、、?もちろんロックダウン中だから、カラッと楽しく漫画の世界のような作品もありだ、とは思うけれど、芝居としてのクオリティーの違い、、、

日本のテレビでは舞台を観たくてWOWOWなんかをチェックしている 石原さとみさんの「密やかな結晶」は面白かった。原作がちょっと架空の世界の設定なので、「どうかな」と思ったけれど、とても独特の空気の漂う芝居だった。
実は石原さとみさんはまだ出たての頃、「赤い疑惑」のリメイク版での一生懸命な演技を見て「いい女優さんになる」と思ってはいたけれど、あまり観る機会がなくて、ドラマを数本しかみていない。でもいつもキチッと演じているのでいつか舞台を見たいな、と思っていた。「いろんなものが一つずつ消滅していく世界」で、消滅したものを忘れずにいられる編集者の男と作家の女性。彼女の方は(普通に)消滅したものを忘れていく中で、最後には身体・命が消滅していくという世界。面白い本を芝居にしたな、と同時に何か感じさせるものを重く残す芝居だった。

さて、これからもサイモン•マクバーニーのCompliciteの作品ややDonmarの昔の「キャバレー」、日本では蜷川さんのシェイクスピアと、まだまだロックダウンが続いて欲しい毎日だ。