久しぶりに日曜マチネ。場所がウェストエンドじゃないから、仕事の後にはなかなか行かれないので、このスタジオーMeniere Chocolate Factoryに行くときは日曜マチネが多い。そもそも日曜に上演している芝居はとても少ないので珍しいケースだが。

イギリスで愛される作家といえばシェイクスピアとジェーン•オースティン。オースティンの小説は6作しかないにもかかわらず、「高慢と偏見(Pride and Prejudice)」や「分別と多感(Sense and sensibility)」「エマ(Emma)」なんかは何度も映画やドラマになり、その度にキャストが話題になっている。彼女の作品は貴族ではない田舎の地主・有力者の家庭が主で、この「平民だけれどお金と教養があるGentry階級」の娘達の、貴族や将校達と結婚するまでを描いたものがほとんどだ。「誰に嫁ぐか」が大問題のお年頃の娘達の目を通して、いろんな男性像や周りの家族達の価値観等を面白おかしく描いている。


この「The Watsons」は比較的早い時期に描き始めた小説だが、なぜか未完のままオースティンは別の話を書き始め、とうとう書き上げる事は無かった作品だ。なぜ途中で打ち捨てられたのかはもちろん明確ではないけれど、だからこそこれに続きをつけた「完結版」と称する作品がたくさん書かれている。

予備知識なしで観たこの芝居、途中からの展開が予想外だった!

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軸になるのは田舎のジェントリー階級の「ワトソン家=題名のThe Watsons」の末娘、エマ。リッチな叔母の元で育てられたエマは他の姉達よりも良い環境で教育を受けてきた。その叔母が再婚するにあたって実家に戻されてきたのだ。父は病床にあって、姉のエリザベスが面倒を見ている。他の姉達にとっても、重要事項は「結婚」のこと。このエリアで一番の貴族「オズボーン家」のパーティーにやってきたエマは、そこでトム•マスグレイヴや牧師のMrハワード、そしてオズボーン家の若き当主、オズボーン等と出会う。 マスグレイヴは娘達の間で話題のいわゆる「たらし」!。自分こそが一番女にもてて当然、のような色気振りまき男。そして堅実で(聖職者だから)誠実な大人のハワード。オズボーン卿は若き当主だが思い切りぎこちなくてまともに女性と会話もできなそうなタイプ。でもこのパーティーでエマはそれぞれの男達に好印象を与えた模様。パーティーの翌日、エマの元にマスグレイヴがやってくるが、彼女は「たらし」には興味がない。続いてやってきたのが不器用なオズボーン卿。しどろもどろで、それでもありったけの勇気を振り絞ってエマに求婚の意想を伝える。

お城に住む貴族のオズボーン卿からの求婚にエマが「イエス」と答えようとしたその時、ワトソン家の若い召使の娘がストップをかける。ジェーン•オースティンの筆はこのプロポーズのあたりで止まっていて、ここからがこの芝居の始まりと言っていい。

召使の娘は実は現代のオースティン研究家のローラ(実際にこの芝居の台本を書いたのがLaura Wade)で、ローラはエマに「あなた達は実在の人間ではなく、書きかけの小説の登場人物にすぎない。この小説は終わりがなくて、でも作者が家族に話した粗筋ではあなたはオズボーン卿ではなくハワード氏と結婚することになっている」と語り出す。登場人物全員がその話を聞いて驚き、混乱し、不安になり、エマ達とローラの会話は現代と19世紀初めのギャップが炸裂する。
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初めはローラが主導権を握って残された資料に鏤められたオースティンの考えたプロットにみんなを引き込もうとするのだが、やがて終わりのないストーリーの中に放り込まれたキャラクター達は「私たちにだって意志がある。書き上げなかった作者の意向なんてどうでもいい」とばかりに反乱精神を起こす。筋書き通りにはならないぞ、と思い思いが勝手な行動に走るのだが、、、、

勝手に結末を付け加えるよりもずっと面白い手法で本が書かれている。放り出されたキャラクター達がどうするのか?ここまでしか描かれなかったキャラクター達が本当はどんな自分でいたいのか?

エマとローラはやがて終わりのないストーリーを繋げていく道を探し出す。

ローラ•ウェイドの本は個々のキャラクターが本の中と外でそれぞれに生かされていて、セリフもウィットに富んでいて笑いを誘う。オースティンが生きたのはもう200年前だ。その頃とは男女のあり方も結婚の仕方も違うとはいえ、どの時代にも属さない価値観の持ち方は今でも十分楽しめる。シェイクスピアが時代を超えて愛されているのも、人間の中身そのものに焦点を当てているからだ。

10人ほどのカンパニーというのもまとめやすいし、本のほとんどは創作なのに、どこかしらジェーン•オースティンらしくてとても楽しい作品だ。半分作者のオースティンは今ではこの国の紙幣(10ポンド札)に描かれている。これをローラがエマに見せるのも笑った!

ちなみにこのメニエールというスタジオはチョコレート工場をスタジオ劇場とレストランにした建物で、行く度に舞台の作り方が違う。客席が周りを囲む造りの時もあったし、スタジオならではの、変形舞台の時もあった。今回は劇場式の舞台の作りで、この狭い空間にそれでも客席400は作っていたかな、、、満杯の客席と舞台の距離感がすごく良くて、スタジオ劇場ならではの熱気で楽しかった。

ちょっとシリアスに考える場面もあったし、何より「これをどうやって収集つけるんだろう?」と思いながらずっと観ていられる。オースティンのように作家になろうと決めたエマはペンを取って自らの続きを書き始める、そしてその小説の主人公もまた作家になって新たなストーリーを、、、、未完の作品が永遠に続いていくのを予感させて静かに幕が閉じられた。