待ってました!今一番旬なフランスの若手戯曲家、 Florian Zeller氏の新作。英語への翻訳はもうすっかりお馴染みのChristopher Hampton。これまでの彼の作品も全てハンプトン氏の英語台本だ。フランス語の原題は「Avant de S'envoler」、英語でのタイトルは「The Height of the storm」。前回見た彼の作品はシチュエーションとしてはコメディーな心理描写だったけれど、今回は少し違ったトーンだ。
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50年間連れ添った愛する連れ合いが突然いなくなってしまったら、、、、?

作家のアンドレの所に娘達がやってきて、色々なことを処理・整理しようとしている。アンドレはもう半分認知症が入っていて、時々訳のわからないことを言ったり物事の理解に苦しんだりしているのだが、そうかと思えば突然正気で話し出したりする。 

始まってすぐに「母=アンドレの妻、マデレーンが死んだ」という設定なのは明らかなのだが、アンドレの頭が混乱しているのと、娘が(おそらく心で)母と会話していたりする様子が出てくるのでちょっと「ん、、、?」 と思う事何度か、、、一時は死んでいるのはアンドレの方か、、?思ってしまうほど、そのあたりの微妙な持って行き方が巧い。会話を聞いていないとわからなくなるので観客はいやでも舞台に集中する。

売れっ子作家だったアンドレも今や年老いているので、マデレーンが色々な書類にまつわる仕事をこなしていたのだろう、それを久しぶりに実家にきた長女が整理しようとするのだが、これがなかなか大変だ。一方次女も得体の知れない彼氏(?)を呼ぶのだが、これがどうやら不動産屋で、娘たちはこの生まれ育った田舎の家を処分して,父を施設に入居させようとしているのだ、、、が、、、やはりそれがとても小出しにされている。

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父を傷つけないように施設行きを提案するのだが、アンドレは半分解っていない。アンドレとマデレーンが50年間添い続けた夫婦である様子や、母と娘たちとの関係がわかるようなシーンが、マデレーンが生きている場面として出てくる。これが最初はちょっと混乱するのだが、状況をはっきりつかめば解りやすい。突然居なくなる、、、それは突然の事故だったり心臓発作かも知れない、いつ誰に起こるか、本当は誰にもわからない現実だ。

私の伯母もシャキシャキとして元気な人だったのだが、ある日お風呂に入りに行ったきりバスルームから出てこなかった、、、私は日本でのお葬式には行かれなかったけれど、家のことを全て取り仕切っていたのはおばさんなので、従兄弟たちは残された伯父さんが着る喪服の場所がわからず、家中を探し回ったとか。 

アンドレを演じているのはイギリス(というよりウェールズ)のベテラン、ジョナサン•プライス。舞台、映画、ミュージカルと幅広く世界的に活躍している実力者だ。この現実と混乱の間を行き来するアンドレの演技は本当に素晴らしい。 じっと座って居てもかすかに震えている手や口元、かすれ声から怒鳴り声まで、見事に表現されていて、私は前から5列目で見て居たのだけれど、顔の皺まで演技しているのかと思ったほどだった!!

マデレーン役はDameの称号を持つEileen Atkins。ロンドンだけでなくブロードウェイでも何度もトニー賞の候補になったりイギリスでは ローレンス•オリヴィエ賞を数回受賞している。プライス氏と共にもう70代だ。この二人の共演という事で公演の情報を得てすぐにチケットを取っておいて本当に良かった。それでフローリアン•ゼレールの本なのだから贅沢な舞台だ。

とはいえ、上演時間は休憩無しの1時間20分。でもこういうドラマは一気に観られるのが良いね。それにしてもゼレール氏は本当に快進撃を続けているなあ〜〜この後の最新作(英語題はThe Son=息子)が今年パリで上演されて、イギリスでも来年には上演されることになりそうだ。彼の作品はThe Father, The Motherというのもあるので、次はThe Daughterか?? なあ〜〜んて、、、、 彼はまだ40にもなって居ない。そうだなあ、日本で野田秀樹さんが出てきた時みたいな感じなのかな?

状況を把握するのにちょっと頭を使いながら台詞を聞いていると、随所に面白い会話があって、重い場面なのにちょっと笑ってしまったりするセンスの良い本だ。考えてみたら誰でもいつかは遭遇することになるシチュエーションに、自分を妻としてみるか、娘としてみるか、夫としてみるか、、、観客にとっても 実は人ごとではない話だ。

観終わったあとに思わずじっと舞台を観ながら、今見たいろんな場面を考えてしまった。私の両親ももう来年には90になる。昔は遠くに思っていた「その時」も、実はいつ来てもおかしくない、、、良い芝居だった。フローリアン氏の次作も楽しみだわ。