ほとんど忘れかけてた!っていう位に久しぶりのフランス古典喜劇!! そうだよ、モリエールがいたじゃないか!、、、、、
iconsquare1382315287-124962-Tartuffe

初めはタイトルの「Tautuffe」 を見てもピンとこなくて、その下にMoliereという名を見てやっと、「あ! タルチュフだ〜〜!」と気づいた。モリエールの喜劇なんて、本当にもう30年以上観ていなかった。久しぶりに嬉しくなって、速攻で何もチェックせずにチケットを取った。前の日になって、帰りの電車の時間が気になったので終演時間を確認しようとしたところ、「バイリンガル•プロダクション」と記事に書かれてあって、「??」と思ったのだった。

モリエールは17世紀のフランスで活躍した劇作家。彼の劇団は旅公演だけでなく、王侯貴族たちからも援助を受け、社会風刺の効いた喜劇で人気を博していた。丁度太陽王、ルイ14世の時代だ。モリエールの喜劇は、同時代のラシーヌのようなギリシャ悲劇を元にした古典劇に比べると、題材が人間本来の感情や思考による間違いや勘違い等での面白さなので、時代にとらわれずに楽しめる。

今回のプロダクションも時代は現代のロサンゼルスという事になっているらしい。そして、本当に英語とフランス語がゴッチャに入り混じってのバイリンガル劇になっている、、、、しょっぱなから聞こえてきたのはフランス語の掛け合い。え、、?と思って見回すと、舞台上部、左右、そして前方の床の左右、と、5箇所の字幕スクリーンがある。こういう場合はサークル席とかの方が舞台と一緒に字幕も視界に入るのだけれど、私のいるストール(一階席)のしかも前方(つまりはものすごく良席)だと字幕を見るためには顔を背けなくちゃならない。せっかく良いテンポの芝居なのに、字幕追いが大変で、「これで最後まで持つのか、、?」と不安になった。

資産家のオルゴンとその母親は友人のタルチュフの事を善良で信心深い、人類の見本のような人物だと崇めている。オルゴンは彼を自分の家に泊めて、なんとか彼を見習って自分も立派な信心深い人間になりたいと思っているのだが、実はタルチュフの本性は偽善者そのもの、自分を信じきっているオルゴンを利用しようとしているに過ぎない。オルゴンの周りの人たち、妻のエルミールや息子のダミス、義兄のクレアント達はタルチュフの胡散臭さをなんとなく見抜いていて、オルゴンに忠告しようとするのだが、オルゴンは一向に耳を貸さない。そして、既に恋人ヴァレールとの婚約が決まっていた娘のマリアンヌを婚約解消してタルチュフに嫁がせようと考える。父にヴァレールではなくタルチュフと結婚するようにと言われたマリアンヌは、父には逆らうべきではないという自分の忠実な娘としての立場から反論できずにいる。マリアンヌの侍女のドリアンヌはもっと自分の意見を主張するべきだとマリアンヌを諭すのだが、とうとうマリアンヌに泣きつかれて彼女の味方になると約束する。マリアンヌの兄のダミスは、タルチュフが密かに母=オルゴンの妻であるエルミールに言い寄っているのを聞きつけ、なんとか父にタルチュフの本性を知らせようとするのだが、オルゴンは一向に息子の言葉を信じないばかりか、逆に信仰を逆手にとって、「自分は罪深い人間だ、許してくれ」というタルチュフにますます肩入れしてしまう。なんとかしてタルチュフの本性を暴こうとエルミールは自らタルチュフに誘いをかけ、自分にいいよる悪党の顔をしたタルチュフの姿を夫に見せる。家族一丸となってタルチュフの本性を暴き、流石のオルゴンも自分の盲目的な思い込みから目がさめる。ところが、マリアンヌと結婚させて、タルチュフに家屋敷と財産を譲ろうとしていたオルゴンは全ての書類が入った鞄がタルチュフの手に渡ってしまった事に気づいて愕然とする、、、、、

The-cast-of-Tartuffe-Photo-Helen-Maybanks-181

父に反抗できずにいるマリアンヌは当時(17世紀)の父親の家庭内での権力を示している。その後に、恋人のヴァレーヌと愛し合っているのに喧嘩になってしまったり、ダミスが必死に本当の事を告げて忠告しているのに、信じないばかりか逆に息子を勘当してしまうオルゴンのバカっぷりは本当に笑える。

それにしてもなぜ2ヶ国語なのか、本当によく分からない。英語部分の翻訳はお馴染みのクリストファー•ハンプトン氏だ。それも、キャラクターによってとか、場面によってというのではなく、普通の掛け合いの途中でいきなりフランス語と英語がシフトするのだから、なかなかついていくのが大変だった。

でも不思議なことに、意味はわからないのに、フランス語の台詞が耳に心地よい、、、おそらくあの時代の作品だから、シェイクスピアの英語と同じように、フランス語の台詞もリズムがあって書かれているのだろう。おまけに役者達は本当に良い芝居をしているので、字幕を見るのがもったいなかった。役者達はイギリス人、フランス人と混ざっているし、中の数人は実際にバイリンガルのようだ。

知らなくて得したのは、ちょうど今BBCでシリーズ3を放映中のドラマ「ベルサイユ」でルイ14世を演じているジョージ•ブラグデンがダミス役で出ていた事だ。3年前から始まったシリーズ物の「ベルサイユ」の大ファンで、「レ•ミゼラブル」の映画にも出ていたジョージのルイ14世をみて「一度舞台でもみてみたい人だな」と思っていたので。彼は子供の頃にフランスの学校に行っていたバイリンガルアクターだ。「ベルサイユ」のドラマは全て英語だけれど、制作はカナダ・フランスなので、インタビューなんかではかなりフランス語でも喋っていたっけ。

ドリアーンとオルゴンの母・ペルネル夫人を演じている2人のフランス人の女優さんが素晴らしい。そしてタルチュフ役のポール•アンダーソンは初めはアメリカ人の役者かと思った。ちょっと鼻にかかった投げやりな感じのロサンゼルスアクセントが偽善者の悪党ぶりを見事に表していて、決して攻撃的じゃないのに、「この悪党!」と思ってしまう憎らしさ!役者自身はイギリス人で、ちょっと驚いた。

最後はオリジナルから現代に変えていて、タルチュフを逮捕するのは国王ではなく、ドナルド•トランプというのがご愛嬌。
実はこの芝居、敬虔なキリスト教信者に見せかけた偽善者という設定から、当時の反宗教的要素を監視していた団体から圧力をかけられ、ベルサイユ宮殿で初演されたものの、その後、国王ルイ14世から上演禁止を命じられてしまう。(これは5年間で解かれている)

なんだか昔劇団時代に上演したフランス喜劇を思い出した。コメディー•フランセーズのレパートリーになっているジョルジュ•フェドーの喜劇達。笑いのテンポがやっぱりモリエールあたりが基本になっていたのだなあとちょっと思った。2ヶ国語ゴッチャの珍しい芝居だったけれど、それがなんだか耳に心地よくて楽しめたのだからまあ、成功していたと言っていいのかな。

でも次回はやっぱり全部分かる言葉で観たいなあ〜〜