観たいと思った映画、「The Happy prince」、ルパート•エヴェレットがワイルドを演じるだけでなく、脚本も監督もやったと聞いて、楽しみにしていた。以前、ルパートが演じた舞台(The Judas Kiss)でのオスカー•ワイルドがすごく良かったので、「あれから入れ込んじゃったのかな」と思ったら、実は彼はもう10年も前からこの映画の企画を進めていたそうだ。
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本を書いたものの、なかなか映画化に乗ってくれる監督が見つからず、一時は企画を諦めかけたそうだ。主要キャストに旧知の信頼する俳優達(コリン•ファースやエミリー•ワトソン)との出演の約束を取り付けておいたものの10年近くが経ってしまったという。そうこうするうち、彼のJudas Kissでの好演が反響を呼び、コリン•ファース氏はアカデミー主演男優賞を取り、 ついにルパートは自分で監督する事にして映画化の運びとなったそうだ。

上流社会からも絶大な人気を誇ってセレブな暮らしに慣れていたオスカー•ワイルドだが、同性愛の罪で2年間投獄されて以降の人生はまさに天と地だった。

この映画は以前感想を書いた芝居、The Judas Kissの2幕と時期が重なる。全てを奪われ、社会から地位も家庭も仕事も名声も全て剥ぎ取られたワイルドがパリで偽名で暮らし始めるところから始まる。 出所してきたオスカーをパリに偽名で呼び、住まいの用意などもしてくれていたのは、かつての恋人でもあった友人のロビー•ロスだ。今はオスカーの数少ない忠実な友人として彼を支える。オスカーの妻と2人の息子は絶縁状態だ。パリで暮らし始めたものの、彼の投獄スキャンダルは今でもパリのイギリス人上流社会の記憶に新しく、あちらこちらで心無い中傷や誹謗を浴びせられる事も多い日々だ。

同性愛が処罰された時代、今では考えられないことのように思っても、まだまだ人々の心に「普通と違うもの」に対する嫌悪や拒否反応は根強く残っている。

監督したルパート自身カミングアウトしたゲイだが、、最近のインタビューで、ハリウッドでもゲイの俳優達はまだまだ差別的な待遇を受けることがが多いと言っていた。自身も、純粋にオーディションが良くなかったり、役に合わないという理由ではなく、決まりかけた仕事が、「ゲイである」ということで配給会社やスポンサーの意向で役をもらえなかった事が何度かあったという。 

ルパート自身がとてもオスカー•ワイルドに共感しているという。俳優として自分を重ねてみると、オスカー•ワイルドという人物を本当に自然に理解できる、と語っていた。そうなのだろう、だから舞台の時もこの映画でも、彼のオスカー•ワイルドは心に響く姿で語りかけてくる。

周りの反対を押し切って、スキャンダルの元になった恋人、ボジー=ダグラス卿とナポリで再び暮らし始めたものの、 人生の華やかさを全て奪われて文無しのオスカーと、まだ若く、わがままで奔放なボジーとが幸せになれるはずもなく、結局二人は苦いを別れをする。傷心でパリに戻ったオスカーを待っていたのは、妻の死の知らせだった。家庭を持った以上、妻と2人の息子にもそれなりの思い入れがあったオスカーは、もう2度と妻と会って謝ることもできなくなってしまった事に打ちのめされる。

晩年のオスカーはお金もなく、3流の安ホテルを転々とし、アブサンに溺れてますます体が衰弱していく。ロビー•ロスとカナダ人のライターで長年の友人であるレジー•ターナーが最期までオスカーのそばにいてくれた真の友人だった。オスカーは ボジーとナポリで別れてから3年後にパリで亡くなる。

ルパート•エヴェレットのオスカーはまさにはまり役、彼の俳優キャリアは、これを演じるためだったかもしれない、とさえ思う。メイクでかなり頬を膨らませ、肉厚のボディーを着込んでいるので、ただでさえ長身な上に、スクリーンの中でとても大きい。アブサン漬けでしわがれた声、でも眼光の鋭さが時折スクリーンにビシっと映える。人生の全て(仕事も家庭も名誉もプライドも信用も生涯の恋人も)を失った オスカーの、それでもどこかに希望を見出そうとするかのような姿を見事に表現している。ただ悲壮感が漂うのではなく、それでもまだ自分自身を失っていないという小さなプライド、社会から裏切られても反発することすら許されない時代のもどかしさ、そして、目を細めて笑う時の無邪気で愛嬌のある姿、あの手この手でこの役に魂を注いでいるのが解る。

監督としての手腕のなかなかのものだ。美しいナポリ、寒い冬のパリ、デカダン溢れる19世紀、ヴィクトリアンの時代をとても美しく描いている。ルパートはまた監督もやりたい、とインタビューで話していたけれど、画面の色なんかもとても綺麗で、やっぱり私はハリウッド•ブロックバスターな映画よりも、こういう地味に美しい映画が好きだなあ〜〜

日本公開はまだなのかな、、、オスカー•ワイルドが好きな人はもちろん、彼を知らなくても十分見応えある作品だ。