BBCがまたも素晴らしく見応えのある番組を創ってくれましたよ!!
少し前からアントニー•ホプキンズのリア王の宣伝をしていたので、これは観なければ!と録画しておいた。

まずチームが素晴らしい。リアにアントニー•ホプキンズ、長女のゴネリルにエマ•トンプソン、次女のリーガンはエミリー•ワトソン、とまさに実力派揃い。おまけに脇を固めるグロスターに名ベテラン脇役のジム•ブロードベント、ケント役にはこれまたお馴染みのジム•カーター、そして何とエドガー役には「シャーロック」でのモリアーティー役の怪演が大インパクトだったアンドリュー•スコットという豪華顔ぶれ。

テレビ用脚本と演出はリチャード•エアー氏で、今回のヴァージョンはテレビドラマらしく2時間にまとめられている。シェイクスピアは舞台作品でも演出によって様々だ。現代を設定にしたものも多いけれど、やっぱりオリジナルのセリフが持つ古典のリズムを壊さないように設定を変えるのは演出家の腕次第だ。
背景は現代そのままで、ロンドンの夜景からロンドン塔=軍の司令部にカメラが移り、リアを取り巻く兵士たちも迷彩服にベレーで軍靴を響かせている。

リア王というと、領地を分け与える娘達に「自分を喜ばせる賛辞の言葉をより上手く言えたものから領地をやろう」と言われて、お世辞タラタラの挙句に後で父親を見捨てる上二人の娘と、お世辞を言えずに父を怒らせて勘当されてしまった末娘の真の愛情、みたいな部分が先行するけれど、この芝居はそれだけではない。兄を陥れてのし上がろうとする野心家のエドモンドは、結局リアの上の娘二人とも両天秤にかけるという悪党キャラだ。そして弟に陥れられた兄のエドガーは気がふれた男のふりをしてリアと出会い、また後には目の言えなくなった父親と再会する。

そう言えば、80年代の黒澤明監督の作品「乱」はこのリア王をモチーフにして、イギリスでも大絶賛された。私がロンドンの映画館で観たときも、終わりに拍手が沸き起こって、「映画館で拍手」というのは初めてだったのでびっくりした。

今回はシェイクスピアもリア王も知らない現代の若者がたまたまテレビを付けたらドラマをやっていたので観た、という流れでも十分楽しめるドラマになっている。老いて少しボケ始めた独裁的なおじいちゃんを当てはめても良い。平気で親を見捨てる家庭の絆の薄さ、兄弟でありながら兄を蹴落として自分を引き上げてもらおうという身勝手な若者、それらの構図は本当に何百年経っても変わらないのだ。改めて、シェイクスピアという人の人間を観察して描き出す筆の力は凄い、と痛感する。 

それにしても80歳になったホプキンズ氏の重厚な演技の素晴らしいこと。凛と響く声も鋭い眼力も健在だ。重いだけでなく、コーディリアと和解するあたりはそても柔らかく、 狂いかけて、スーパーのカートにゴミを山積みにして引き廻すあたりの力を抜いた演技も的確だ。

端折っているシーンもあったのだけれど、観ていてほとんど気にならなかった。(エドガーとグロスターのシーンがもう少し欲しかったけど)グロスターの目をくり抜くシーンは本当に目を覆いたくなるようなリアリティーがあり、エドモンドを挟んでのゴネリルとリーガンのビッチな火花のちらし合いもさすがはベテラン女優お二人。

まず、ホプキンズ氏の年齢を考えたら、もうこんなキャストでこんなドラマって作れないんじゃないか、、とさえ思ってしまった。2−3年前にやっぱりテレビ版で放映された「The Dresser」というドラマで、イアン•マッケルンとアントニー•ホプキンスがダブル主演していた時もそう思って、ドラマの質の高さに感動したのだけれど、、、、偶然か、今年の夏からマッケルン氏も舞台でリア王をやる。彼も79歳だ。

考えてみたら、私がずっと尊敬しているイギリスの名優達はみんなもう80代になっている、、、機会があるうちに是非観ておかなくては。