数年前にポランスキー監督の映画を観て、元の舞台版が観たいと思った芝居、Venus in Fur(毛皮のヴィーナス)がロンドンで上演されている。
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脚本はDavid Ives、初演は2010年にオフ•ブロードウェイで、後にブロードウェイに乗っている。ポランスキー監督が映画にしたのが2012年だから、映画化としては早い方か、、、 本来の原作はザッハー•マゾッホで、マゾヒズムの語源になったという。
話の展開は映画を見た時の感想に書いたので、ちょっと端折ってしまおう。こちらを参照してください

映画版はパリの小さな劇場でのオーディションという設定だったけれど、本来の舞台版は、アメリカで書かれている。今回の演出で面白かったのは、一応アメリカでの話という事で、トマもヴァンダも素で話す時はアメリカンな英語で喋っている

演じている俳優はもちろん二人ともイギリスの役者なのだが、実はこの二人、ナタリー•ドルマーもデヴィッド•オークスもアメリカのテレビドラマや映画にも出演していて、なかなかナチュラルなアメリカンを話す。そしてオーディション内の役柄、クルジェミスキーとヴァンダを演じている時は、設定がクラシックでヨーロッパという事なのだろう、イギリス英語でセリフが語られていく。だからオーディションとして台本を読んでいる時と、作・演出家と女優に戻った時の会話のやり取りが、芝居と素の状態が聞いているだけで区別できて解りやすい

映画を見た時はフランス語のセリフを英語のサブタイトルで観ていたのだけれど、今回全編英語で聞いてみると、台詞にかなり笑える要素が散りばめられている。 結構コメディーっぽい掛け合いもあるので、セクシャルでダークなイメージが気恥ずかしくなるという事が無かった。

最初からヴァンダはピチピチの女王様スタイルで黒いパンティー丸見えなので、男性じゃ無くてもやっぱりむき出しの足やお尻に目がいってしまうのは仕方ない、という事か••••• う〜〜ん、スタイル抜群で女性としてはひたすら羨ましい限り 映画版よりは二人ともずっと若い。ヴァンダ役のナタリーは一見可愛い顔でキュートな笑顔を持ちながら、男を自分のペースに巻き込むパワフルな魅力を持っている。そしてトマ役のデヴィッドは知的で素直な笑顔が魅力的で、あまりダークな秘密は表に出さない演技 がナチュラルだ。

映画版は最後の最後がなんだか「ん、、??よくわからない、、?」と思いながら突然終わってしまった感じだったけれど、今回はそのあたりは収拾がついた。それでも、一体このヴァンダと名乗るとんでもないゴリ押し女優は何者なのか??というあたりはなんとなくミステリアスなままだ。首に縄をかけられ、柱に縛られたトマが叫ぶ、「お前は一体誰なんだ

最初からまだ出回っていないはずの上演台本を持っていたり、トマが求める役とは真反対のイメージで登場しながら、本読みを始めると思った通りの役柄を演じてみせる。またやたらとプライベートな事=トマの奥さんの履歴まで知っていたり、(後で、「実は奥さんとはジムで知り合ったのよ」と言っていたが、真相は不明??)一体この女は何者なのか??!

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夢、あるいは幻という言葉が合うかどうかはわからないけれど、もしかしたらこれはトマの妄想、いや願望なのではないだろうか?自分が書いた脚本のオーディションに来た女優たちはどれもハズレで、失望にも似た気分の中でトマは妄想する、、、、こんな女がオーディションに飛び込んで来たら、、、こんな女が自分の書いた芝居を完璧に理解して役を理想的に演じてくれたら、、そして自分の奥底にある真実の願望と欲望に目覚めさせてくれたら、、、、 

嵐の夜の、劇場の片隅で一人の男が見た幻想、、、?

それにしても二人の役者のケミストリーが素晴らしい。映画版も好きだったけど、やっぱり舞台での芝居だね。日本ではやれる人がいるかなあ〜?と思ったけれど、稲垣吾郎さんと中越典子さんで上演されたそうだ。う〜〜ん、なかなかいいかも、中越さんならこの役、いいだろうな。そして稲垣さんの知的で素朴なイメージは結構あってるかも。

休憩なしの1時間半、グイグイと観客を引っ張りながらちょっと怪しい摩訶不思議な空間に連れていってくれた感じ。 テレビに、映画に、舞台にと幅広く活躍する役者同士、かなりレベルの高い演技を見せてくれた