本当は蜷川さん追悼公演のマクベスを観るつもりでいたのだが、日本に行く2週間の休みを取れる時期が折り合わず、結局マクベスは諦める事になってしまった。
で、代わりというか、久しぶりでバービカンでRSCのシェイクスピアを観ることにした。
22


このThe Tempestは本拠地のストラトフォードで上演された時から話題になっていて、インテル社の協力のもと、舞台全体が3Dのプロジェクターで 大掛かりな仕掛けが施されている。
シェイクスピアのThe Tempestは妖精たちや魔女の息子が出てきたり、魔術で嵐を起こしたりと、現実のは少し外れたファンタジーの世界観を持つ話だ。

弟一味の陰謀でミラノを追われたもと大公のプロスペローは、無人島で娘と二人で暮らしている、彼には魔術を操る力があり、妖精のアリエルを家来のように使い、裏切った弟やナポリ王の一行が乗った船が近くを航海していることを知ると、大嵐を起こさせて、一行を島へおびき寄せる。

実は前回この芝居を見たのは、レイフ•ファインズのプロスペローでトレバー•ナン氏の演出だった。解りやすい芝居だし、視覚的な見応えもあって面白かったので、今回のスペクタクルな21世紀のテクノロジーを駆使した舞台がどんなものか楽しみだった。

さて、あらすじ等は前回のこちらのブログを参考にしていただく事にして今回はちょっと省きます。この舞台、幕が開いた瞬間から「大掛かり」がやってくる。大嵐のシーンが、まず船の枠組みに大波、大風、と3Dプロジェクターで本当にリアルだ。そういえば前に観た「Lord of the Rings」も大掛かりな視覚装置でファンタジーの世界を描いていた。
Intel-TheTempest-9-x
よく観ると、アリエル(空気を司る妖精)の体の動きが3Dでプロジェクターに反映する仕組みになっていて、マジカルなパワーがいっぱいだ。次から次へと目を奪われるような壮大な世界が展開する。

tempest-gramafilm-3048-e1480372282729

そして途中でふと気づいた。「あれ、、この芝居って、もう少し面白かったんじゃないかな、、、」
視覚効果が大きいのは見応えあるのだが、逆に本来の芝居の持つ面白さがその分薄れてしまっているような気がしてくるのだ。

プロスペロー役のSimon Russell Bealeは実力派のベテランで、RSCの役者達は皆さん力量は確かだ。でもシェイクスピアらしい面白さが、なんだか薄れているような、、、これが演出の違いによるものなのか、、?
前に観たトレバー•ナン氏の演出では、魔術のシーンは仕掛けよりも、リボンダンサーやアクロバット的な宙吊りにダンサー達を使って肉体で躍動感を出していた。もともとシェイクスピアの時代には仕掛けなんてできなかったのだから、それを補うためにシェイクスピアは台詞を書いたのだ、それを役者がきかせる事で、観客にイマジネーションを与え、想像を膨らませていたのだ。

この舞台をシェイクスピアが観たら何というだろうか?まずびっくり仰天するに違いない。もしかしたら台詞を3分の1ほど削ってしまうかもしれない。(描写の必要がないかも)21世紀のテクノロジーのおかげでCGがどんどんリアルになり、だからハリー•ポッターシリーズも映画化することができたわけだし、エンターテイメントということでは本当に進化している。でも元々の「本」にあった言葉達がなんだか薄れてしまうような感じでちょっと疑問を感じる。

「言葉、言葉、言葉だ、、」とシェイクスピアが本に詰め込んだ幻想的でマジカルな世界観が、言葉から離れすぎてしまうのは芝居の面白さを奪ってしまわないだろうか••••
今回の演出は5年前からRSCの芸術監督をしているグレゴリー•ドーラン氏。前任のトレバー•ナンやピーター•ホール同様、シェイクスピアへの愛情を感じる舞台を多数演出している。元々はRSCに役者として入ったのが、後に演出に移った人だ。RSC以前から劇団を作ったりしていた人なので、役者としてよりも、舞台演出をやりたかったのかも。

このテンペストは観る価値は十分にある。こんなにもマジカルな世界を舞台に出せるなんて思ってもいなかった。だけど、私が好きかどうかという観点で見ると、実は前回のナン氏の演出の舞台の方が解りやすくて芝居として面白かったと言える。視覚が言葉を遮らない範囲でみせてくれていた。

こちらの感想←と比べてみてください。