聖書の中にある、イエス・キリストがラザロ(ラザラス)という男を死後4日目にして蘇らせたという話は有名だ。ボウイーの死後、彼の50年近くに渡るキャリアに対するフィードバックが白熱している。70年代、80年代が青春期だった人達にとって、彼の影響力は計り知れないものがあった。音楽だけでなく、ファッションや金融、インターネットと、常に時代を先取りしてきたアーティストとして、好き嫌いはあるにせよ、彼の残した足跡の大きさは皆が認めている。

亡くなった週末のUKチャートでは、遺作のBlackstarがロケット並みの売り上げで1位となり、トップ40に10枚、トップ100に19枚のアルバムがチャート入りするという凄い現象が起きた。そしてアメリカでも初のアルバム1位に。まあ、これも亡くなった勢いというものだけれど、2週目になっても、一位は変わらず、トップ40に9枚(と41位)、トップ100に 19枚のアルバムが入っている。チャートの20%を一人のアーティストが占めるなんて尋常じゃないよ、、、ボウイーらしい「ラザロの復活」だ

さて、今年初の芝居は座席数100のトラファルガー・スタジオでの「The picture of Dorian Gray
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オスカー・ワイルドの代表作だが、これは元々戯曲ではない。最初に文芸雑誌に掲載された際には、当時は違法だった同性愛の色が出ているという事で、編集者によって添削されてしまった

今回の台本は、ワイルドの孫でもあるマーリン・ホランド氏の協力でオリジナル原稿から削除されてしまった部分を取り入れた新しい本という事だった。
この配役、ヘンリー卿とドリアンのキャラクターが、見ての通り実際のワイルドと恋人だったダグラス卿に瓜二つ

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 よく言うと、完結でシンプル。大げさなエロティシズムや廃退的な空気は無くて、純真だったドリアンが快楽主義者のヘンリー卿に影響されてどんどん変わっていく、という従来の解釈とは少し違う。ヘンリー卿は確かにドリアンに新しい道を教えてしまうのだけれど、ドリアン自身が自分の悪を吸収してくれる肖像画を利用していく。

清らかで美しいドリアンの絵を描いた画家のバジルは、自分の愛(同性愛)のたけを込めて 最高の絵を描いたのに、どんどん変わっていってしまうドリアンに心を痛め、思いを打ち明ける。この部分が発刊時に削除されたようだ。

このドリアンは自分の夢の世界に生きる事を選んでしまったように思う。最初に恋した女優のシヴィルも、彼女自身ではなく、彼女の演じるジュリエットやオフィーリアに魅せられてしまったにすぎない。ヘンリー卿の言葉よりも、その思想を自分の中で幻想の世界として作り上げてその中で生きて行き、自身の肖像画にそのツケをなすり付ける、、、、

これが本当にオスカー・ワイルドが描きたかったドリアン・グレーだ」というホランド氏。今までのドラマチックで堕落なエロティシズム満載のドリアン・グレーとはかなり違う。ワイルド自身はこう言っていたそうだ、「僕自身は画家のシヴィル、ヘンリー卿は世間が僕だと思っているキャラクター、そしてドリアンは僕がなりたかった人物

なにせ客席100のスタジオだから、役者が動ける範囲はせいぜい5-6歩。その中で、少ない置道具を頻繁に転換しながら、シンプルな芝居に創っている。本来のドリアン・グレーが好きな人たちにはちょっと物足りないかもしれないね。でもちょっと違った見方ができて、初めてこの作品に触れる人には解り易いと思う

でもやっぱりもう少し、ヘンリー卿の名言を取り入れて、ワイルドらしい怪しい空気があっても良かったんじゃないかなあ〜〜・・・