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新年最初の舞台はJude Law主演の「ヘンリー5世
2012年の12月からのマイケル・グランデージ(Michael Grandage)演出による5作品連続上演の大トリだ。シーズンチケットが売り出されたのは12年の夏だったから、なんと1年半前にチケットを買ったんだ・・・よく無くさないでいたなあ〜〜

シェイクスピアものの歴史劇というのは実はほとんどちゃんと舞台で観た事がなかった。これは前回シネマライブで観た「リチャード2世」もそうだ。実はシェイクスピア劇はほとんどいつでもどこかで上演されてはいるけれど、演出や解釈が本当に千差万別で好き嫌いが出てしまう。現代に置き換えたような衣装や設定でのシェイクスピアも沢山あるけれど、私はやっぱり歴史背景をちゃんと残してのオーソドックスな演出でないと観る気がしない。

そういえば前回ジュード・ロウが演じたシェイクスピアはハムレットで、この演出もGrandage氏だったっけ。彼の演出はとても解り易くて飽きがこない。セットは石垣状の壁を巧く使っている。(あれ?ハムレットも背景が壁だったような・・・?)衣装の色合いも明るい場面と暗い場面の両方で巧く色合いを出している。2役を演じている役者も数人いるので、衣装ですぐに違う人物と解るようにしているかんじ。

「ヘンリー5世」は国内での血みどろの王位争いとはちがって、フランスとの百年戦争の一部が舞台になっている。イングランド愛国心をあおるような勢いがある為、この国が戦争になると登場する事が多いという。ローレンス・オリビエの主演で映画化されたのは世界大戦の末期だったし、80年代のフォークランド紛争直後にケネス・ブラナーのバージョンで再び映画化、イラク戦争の時にも舞台上演されている。

ジュードはハムレットも良かったけれど、役としてはヘンリーのほうが合ってると思う。威張りすぎず、それでいてリーダーとしての風格を持った若き国王。百年戦争の中でも、イングランドが大成功を収めてフランス国王継承権を手にしたアジャンクール(英語読みはアジンコート)の戦い前後が背景になっているので、統率力のある勇ましい姿がとても似合う。台詞の流れがとても自然で、長い演説のようなくだりでも、ちっとも長台詞のように聞こえない。自分の中での感情をシェイクスピアの台詞にぴったり合わせて自然な言葉として語るには、どれだけ一言一言を読み込んで、自分の中に飲み込んでいくのだろう・・・??台詞の違和感が全くなかった

アジャンクールの戦いに出る際の、味方の士気を高めて激励を飛ばす名演説でのヘンリーも頼もしくて素敵だけれど、同時に終盤でフランス王シャルル6世の娘、キャサリン(=カトリーヌ)に求婚する際のヘンリーがまた、とても愛嬌があって笑える。この結婚は両国の和平協定としての政治的なものだというのは一目瞭然なのだけれど、それでもヘンリーのほうはキャサリンを見初めて結婚を申し込む。言葉の通じない彼女に国王の威厳をかなぐり捨てて求婚するヘンリーは、誠実でちょっと女性を口説くのは器用じゃなくて、でも一生懸命に気持ちを伝えようとする

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こんな愛嬌あるヘンリーを演じられるのもジュード・ロウ氏の魅力だね。ちなみにキャサリンをケイトを呼ぶあたり、今のケンブリッジ公(ウィリアム王子)妃と重なるものがあって、笑いを誘っていた。(結婚が決まってからはキャサリンと呼ばれるようになったものの、今でも国民からは昔ながらのケイトという呼び名で親しまれている)

一言でいうなら、国王ヘンリー5世の「イングランドよ、さあ行くぜ!今こそ手を取り合って共に戦い、勝利するのだ!」という激励のもと、それまでの戦いで消耗し弱っていたイングランド軍が、兵の数では約3倍ものフランス軍を見事に打ち破って勝利を収め、フランス王位継承権を認めさせた上、フランス国王の王女を妃として迎えた、というお話。今の時代になっても戦争の度にこの芝居が出て来るというのもうなづける。確かに観ていて気分が良くなってしまうのだ。愛国心がくすぐられる

ケネス・ブラナー氏の映画バーションでの戦い前夜の有名な演説シーンは鳥肌ものだとのレビューがあった。映画のDVDを観てみたくなったな。ジュードのヘンリー(ハリー)は愛嬌があってとても好感が持てる役作りだったけれど、ケネス・ブラナー氏はもう少し太いっていうか、重厚な感じのするヘンリーなんじゃないかな。シェイクスピア劇はどう料理するかでいくらでも面白くなるからやっぱり凄い・・・