David-Tennant_2705271b

National Theatreが数年前に始めた、舞台の生中継ライブを映画館で上映するというスタイルは、あっという間に大人気になり、今やNTの定番になりつつある。全公演ではないものの、以前よりも数多くの舞台中継が地元の映画館で観られるとあって、英国各地のみならずヨーロッパ各地、アメリカ、カナダ、オーストラリア、、、と500館もの映画館で上映されている。作品によっては、同時生中継だけでなく後日にアンコール上映もされて、普段ロンドンの劇場に足を運べない人達にとって身近に舞台を観る事ができる機会とあって大人気だ。それでも日本のように簡単にDVDになってしまったりあるいはテレビで放映というような事はなく、劇場と同じような観客席の映画館で上映という事で、舞台演劇というものにあくまでも一線を引いているところが伝統というべきか・・・舞台劇は客席で観るもの。お茶の間で観るものではないのだ

今回ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが初めてこのLiveを試みたのが現在ストラトフォードで上演中の「RichardII =リチャード2世」だ。主演はDavid Tennant、この舞台は来年にはロンドンのバービカンでの上演が決まっているけれど実はもう既にチケットは完売している。私もハムレットで絶賛されたテナント氏の舞台は観たかったけれど、「リチャード2世」はシェイクスピアの作品の中ではそれ程「観たい!」という演目ではないもので、どうしようかと思っているうちにチケットを取り損ねた。それにしても本拠地ストラトフォードでの舞台はどれもレビューが4〜5星揃いなので、ライヴ上映があるなら観ようと思って決めた。

映画を観る際、始まる時間から最初の30分はたっぷり予告や宣伝に使われている。余裕でも20分遅れで映画館に行けば充分というのが常識だ。でも今回の場合はどうなのだろう、、?RSCのサイトを見てみると、ストラトフォードでの開演も7:00PMになっている。という事はこの場合7時より早めに行ってないとマズいという事、、 仕事が終って定時に走り出て、地元の映画館に着いたのが6:35だった。映画館内のスタバでちょっとゆっくり珈琲とサンドイッチでも、、と思っていたのに、なんとスタバは長蛇の列 実際この映画館の平日夜にこんなに人がいるのさえ見た事無い!しかも明らかに客層が今日は違うって・・・コーヒーを持って館内に入ると(この映画館は15スクリーンあって、ロードショウものは大きめのシネマを使う)もう既に8割方満席こんなの見た事ないよ〜〜・・・

センターブロックの通路脇の席に着く。劇場の椅子より広くて座り心地が良い。頭を持たれかけることができるし、前の人の頭も視界に入らない。コーヒーを置くカップスタンドもあるし、足元だって快適に伸ばせる これはウェストエンドの劇場よりもずっと快適 これでチケット代は舞台の4分の1だし。 

7時になるとストラトフォードから中継がスタート。開演前の客席のざわめきの中、プレゼンターが芝居の背景や俳優達のコメント、稽古風景等を紹介していく。劇場でプログラムを買う代わりといった感じ。15分程過ぎて幕が開いた。「リチャード2世」はシェイクスピアの作品の中では地味なほうだ。歴史劇物に分類されているけれど、悲劇ものや喜劇ものと比べると上演される回数もずっと少ない。実は私もテレビで放映されたドラマ版や昔の映画版はちょっと見た事あったけれど、舞台では初めてだ。

あまり政治的才覚に優れているとはいえなかったリチャードが、民衆から反乱を起こされたりさらには宮廷内でも次第にうとまれてしまって、だんだん味方がいなくなっていく。亡くなった叔父の財産を没収した軍資金でアイルランド遠征に行っている間に、追放した従弟のヘンリー・ボリングブロークが密かにイングランドに戻ってきて着々と味方を集めて反リチャード体勢を固めると、やがてリチャードはその王座を空け渡さざるを得なくなる

戦いで負けるという形ではなく、次第に力を失くしていってかつての取り巻き達に去られ、従弟に王冠を譲るハメになったリチャードの没落の様子を描いているのだけれど、この国王としての才能に恵まれなかったリチャードの落ちぶれっぷりがなんとも哀れなだ。芝居の最期には幽閉されていた城で暗殺されるのだが、これは史実ではどうやら衰弱死(餓死?)という事だったらしい。実際のリチャードのポートレートはこちら

Richard_II_King_of_England

王冠ー悪事ー暗殺ー権力といったドラマチックな展開ではなく、力弱い王の話だ。国王としての威厳や思慮深さに欠け、コロコロと人のおべっかに乗ってしまう筋の通っていない男なのだが、なんだかそれが放っておけないような、哀れな魅力として書かれている。愛嬌のある役者でないと引きつけられない役だね。デヴィッド・テナント氏はうってつけ。一国の王としてはダメダメなのに、落ちぶれるにつけて可哀想になってしまう。「あなたが悪いんじゃないのよ」と言ってあげたくなるのだ。付け毛の長髪、白いローヴに十字架を付けて、まるでキリストのようにも見える。(そういう意図もシェイクスピアの中にあったらしい)

休憩時間は劇場と一緒に20分。でも実際には10分でまたコメンテーターが役者のインタビューや舞台裏(セットや証明)の解説を入れてくれる。見ごたえのあるライヴだった。でも欲を言うと、カメラワークが寄り過ぎてたかなあ〜・・・役者の表情をアップで観られるのは醍醐味だけれど、劇場中継なのでもっと舞台全体の絵も見たかった。日本のWOWOWのほうが巧いかも。まあ、これがRSC初のライヴだからね。これ以降来年の舞台もまた中継を予定しているらしい。この「リチャード2世」は昨日だけで英国とヨーロッパで34000人のシネマ観客数だったそうだ。さらにこの後アメリカ、オーストラリア、そして日本でも上映されるらしいので、興味のある方はチェックしてみてはいかがでしょうか

舞台は舞台、これは基本だけれど、実際に劇場まで足を運べない人達にとっては充分空気を感じられるはず。舞台のチケット代は惜しいけど、映画館なら、、という二次選択の演目や、チケットが取れなかったり見逃した作品をアンコール上映でみるというのも今後の選択肢に入れなくちゃ。特にNTは最近次々とライヴを決行してるし。まるで劇場にいるような雰囲気の映画館というのも面白い。映画館の人達も「今夜は違う」と思っていただろう。

去年のBBCでベン・ウィショウが演ったRichardIIをも一度観たくなった。録画してざっと観ただけでデジタルテレビのセットボックスがダメになっちゃってちゃんと覚えてないけど、見比べたいなあ〜〜