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20年以上ぶりか、V&A(ヴィクトリア&アルバートミュージーアム)に行ったのは・・・
ロンドンに来た頃は何度も行ったのに、今は北に住んでるので、ウェストエンドよりさらに西/南にはとんと足が向かなくなってしまった。本当は大好きなエリアなんだけどね、サウス・ケン(South Kensington)

さて行って来たのは、デヴィッド・ボウイー展。今年の初め(彼の66歳の誕生日)に10年もの沈黙を破って突然新しいシングルを発表し、さらに3月にはアルバムも配信販売するというニュースでビックリ仰天させてくれたボウイー。業界関係者の中には、ボウイーのオフィスからメールが来てるのをみて、「死んだのか!?」と思ってしまった人もいたそうだ。私が今まで彼の事をブログに書かなかったのは、とにかくこの10年話題が無かったし、書くとなるとあまりにも歴史と思い入れが多過ぎて書けなかったから。でもMy Artistsの筆頭に挙げるのはこの人なのです

実は私はボウイーのキャリアの後半から追いついた世代だ。彼を世に知らしめた「Space Oddity」やその後のグラムロックの代表となるジギー・スターダストアラジン・セインの頃はリアルタイムでは知らなかった。クイーンやレッド・ツェッペリンに夢中になっていた70年代半ば頃も、もちろんDavid Bowieの事は知っていたけれど、当時彼はアメリカに住んでいて、丁度ドラッグ中毒でヘロヘロになっていた頃だ。私が初めて彼に追いついたのはニコラス・ローグ監督の「地球に落ちて来た男」という映画と、その後のアルバム「Station To Station」からだった。ドラッグで、いつ死ぬかという状態から抜け出し、ヨーロッパに戻って再生した彼は80年代に再びピークを迎える。この頃からが私のリアル世代だ

このエキシビションは3月から6ヶ月間開かれていて、チケットは毎日入場時間が15分毎に決められている。半年間のチケットはすべて売り切れで、当日券は毎日数百枚が出るらしい。何故入場制限があるのか、行ってみて納得。入り口で全員にイヤホーンガイドが配られる。さすがは21世紀、、、このガイド、会場内を歩くうち、各々のスポットの前に立つと自動的に解説が入るようになっている。順番という事ではなく、後からまた戻っても先へ飛ばして進んでも、ちゃんとそのスポットでの解説が流れるのだ。インタビューやステージショットも多く、どうしても各所で立ち止まる時間が長くなる。入場してから10m程進むのに15分くらいかかる・・・

来ている人達の年齢層がとても広い。老若男女とはこの事だ。でもやっぱり圧倒的に多いのが40~60代だろうか。ボウイーになりたくてなれなかった苦い青春を過したかのような男性達や、70年代のジギー・スターダストのコンサートで泣き崩れながら叫んだ少女時代がありそうな御婦人達・・・そして彼等の孫か、、?と思うようなまだ10代になったばかりの子供達まで。みんなひとつひとつのコラムを時間をかけて見て行く。書かれた解説を端から端まで読み、展示物をしげしげと見つめ、随所にあるVDUスクリーンの前に立ち止まって見入っている。だから進むのに本当に時間がかかるのだ・・・

有名になる以前のアコースティック時代から、グラムロック時代、アメリカ時代、ベルリン時代、そして80年代のポップな時代、その後のバンド時代、そして熟年の90年代、、、、彼が生み出して来た世界のなんという幅の広さ 音楽だけでも一人のアーティストとは思えないバラエティーだ。そして彼の凄いところはその発想のひらめき。他の誰もデヴィッド・ボウイーのようなキャリアも持った人はいない。作詞、作曲だけでなく、ステージでのビジュアルや表現するための手段とカリスマ性は稀少な才能としかいいようがない。ダンスやマイムから学んだ表現力は後に役者としても活用される。実は私は役者の彼が好きだ

ちょっとした言葉の組み合わせで面白い語ができると、そこからもう歌が一つできあがってしまうくらい想像力が膨らむ、と本人が言っている。そしてそれを表現するために自分を別の人格にしてしまう事も厭わなかったチャレンジ・・・コカイン中毒で何度か危機を迎えながらも彼は生き延びて、エネルギーに溢れて復活する。彼はサバイバーだ。
今回10年ぶりにアルバムを発表したのだって、誰も予想もしていなかった。まったく情報漏れのなかったビックリニュースでいかにも彼らしい。

展示会場の最期はちょっと広いスペースの3方が天井までのスクリーンで、いろんな時期のコンサートの一部を流している。みんな歌に合わせて体を揺すったりちょっと口を動かして一緒に歌ったりしているのだけれど、音はあくまでも全員のヘッドホンで聞こえるだけなので、ヘッドホンをはずすと沢山人がいるスペースに音楽は全く流れていないのだ、変なかんじ・・・ここには座れるようにベンチがあって、立ち疲れたせいもあって、みんな結構長く座っている。

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隣のコーナーは彼が出演した映画/舞台を、作品毎に3ー5分くらいずつ映像を流している。「戦場のメリークリスマス」のポスターもあって、処刑の朝、マイムで髭を剃るシーンをやっていた。貴重だったのが、ブロードウェイで彼がメリックを演じた「エレファント・マン」の一部。これは見た事がなかったので嬉しかった 
数々のコンサートでの衣装の展示や歌詞の書き付け、ツアーの照明プラン、ビデオの絵コンテのスケッチ、ボウイー自身の膨大な量の手書きの資料が並ぶ。写真でしか見た事なかった彼が描いた三島由紀夫のポートレート(油画)も。
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実は特に新しい物があったというわけではない。彼の歴史、歌詞の制作過程、衣装、インタビュー内容、それらはファンならば皆知っている。知っているのだけれど、それでももう一度見入ってしまう。絶対無二のアーティストが40年の間にやってきた事は膨大なアイデアとインスピレーションに溢れていて、時代がいくつ廻っても追いつかないんじゃないだろうか・・・結局私は2時間半も会場にいた。その後はショップでここでも20分程うろうろしたから、なんと一つの展示会に3時間。お腹が空くのも忘れていた。

それにしてもちょっと気になるよ、、、アルバムを出してこんな大掛かりな展示会があって、、、なんだかこれが本当に最期なんじゃないだろうかって。最近テレビやラジオで彼の特集番組がいくつもあったけど(若い世代は多分デヴィッド・ボウイーを知らないからか?)、リアル番組でのインタビューとかは全くやってない。本人が表に出て来ないのは何でだろう??去年のオリンピックの開会式も、演出のダニー・ボイル氏が直談判で頼んでも出るのを断ったそうだ

でも彼はDavid Bowieだからね、まだ何か企んでるのかも・・・