なんて力がみなぎっているのだろう」と思わずにいられない。何度観ても、何回CDを繰り返して聴いてもその力に圧倒されるのは変わらない。そしてそれは舞台から映画になってもそうだった。昨日観て来た映画版のミュージカル「レ・ミゼラブル」初めてこの舞台を観たのは26年前、まだ初演オリジナルのキャストの時だった。今でも上演され続けている世界最長ロングランのミュージカルだ。

舞台劇が映画化されるのも、またその逆も同様に善し悪しがある。舞台から映像への一番の利点は、実写による背景のリアリティーや、アップで観る事ができる役者の表情が効果音楽と共に情緒が倍増されて、ぐんとスケールが広がるという事だ。ただ、これがミュージカルとなるとちょっと違って来る部分もある。台詞からいきなり歌やダンスに繋ぐあたりで「ついていけない」と思ってしまう映画ファンもいると思うし、ましてや全編の台詞がすべて歌というのは尚更だ

このレ・ミゼの映画では、歌=台詞はすべて撮影と同時収録の生歌で撮ったというのが前評判になっていた。ミュージカル映画の場合、ほとんどは歌の部分は後からスタジオで録音する。画面では口パクだ。もちろんずれたりはしていないのだけれど、ミュージカルがリアリティーからハズレて見えてしまうのは否めない。今回は役者がカメラの前で演技すると同時に、ピアノ伴奏をイヤホンで通しながら生で歌ったものを収録したそうだ。このほんのちょっとのリアリティーが感情表現を2倍にも3倍にもしていると言って良い。涙を流しながら歌う役者の呼吸が、嗚咽をこらえて絞り出す声が、演技そのままに伝わってくる

役者達はもちろん歌える人達ばかりだ。全体のレベルはステージに匹敵するくらい高い。ジャン・バルジャン役のヒュー・ジャックマンとファンティーヌ役のアン・ハサウェイを筆頭に、すべての役者達が粒ぞろいで素晴らしい。ただ、個人的にはジャベールが弱かった・・・ラッセル・クロウ氏が悪いというのではなく、もちろん彼も歌えるのだけれど、あまりにも他のレベルが高いので、力量の差が見えてしまってもったいなかった

ジャベールは愚かなくらいバルジャンに固執して、生涯彼を追い回すのだけれど、ジャベールには彼なりの断固とした正義があるのだ。正義と使命の為に生涯をかけてバルジャンを追ってきたからこそ、最期に「自分は間違っていたのか」という疑問に突き当たった時、それまでの人生すべてを否定されてしまったような絶望感を味わうのだ。「Star」は彼の揺るぎない正義感と使命感を観客に納得させる重要な歌で、舞台でもいつも強い歌唱力を持った役者が演じてきたのだけれど、この曲でのラッセル・クロウ氏の演技/歌唱力が弱かったんだ、、、だから最期に橋から飛び降りるに至る部分がなんだか中途半端で滑稽に見えてしまった。いつも熊さんのような表情で、演技力的にはこの役だけはミスキャストだったと思う

感激したのはオリジナルキャストでジャンバルジャンだったコルム・ウィルキンソン氏が出所後のバルジャンを導く神父役で出演している事。知ってはいたけれど、出て来た瞬間、お顔に後光が差してるようで、まさかのっけからあのシーンで泣くとは自分でも思っていなかった。ちなみにもうひとり、オリジナルでエポニーヌを演じたフランセス・ルフェルも娼婦1役で出ている。こちらはほんのちょっとの隠れ出演なので、知らないと見つけられないような小さな訳だけれど、しっかりと確認しましたよ。ちなみにこのお二人はロンドンとブロードウェイの両方の舞台でオリジナルキャストだった。映画も含めて3つのプロダクションに参加したのはこの二人だけだ

ロンドンでは今でもいつでもQueen's Theatreに行けば「レ・ミゼラブル」の舞台が観られる。でもこの映画版は舞台でこの作品を観られない人にとっては充分にその代わりとして魅力のある作品になっている。舞台を観ているようなリアルな迫力がある。「オペラ座の怪人」の映画版より数倍良い。(あれは舞台の代わりにはならないなあ〜〜、映画としてなら昔の白黒の「オペラの怪人」が良いし・・・)ちなみに「オペラ座の怪人」をDVDで観るなら、去年の25周年記念のステージ/コンサートヴァージョンが最強です

それにしてもこのミュージカルの底力は、何といってもユゴー氏の原作だ。この壮大な人間ドラマがいつの時代にもどの国の人にも強く響くものがあるからだろう。この背景になっているフランス革命はルイ16世の時ではなく、ナポレオンの失脚後に王政復古した時点から、さらに再びブルボン王家が排除されてフランス最期の王=ルイーフィリップの時代だ。王政から血で血を洗う恐怖革命、ナポレオンの支配下から再び王政、そして最期の自由を求めての革命運動という激動の時代に、権力ある身分から泥の中を這って行き伸びようとする民衆まで、いろんな立場の人物像を絡めながら「人間」の持つ底力を描き出している。この不滅のヒューマンストーリーが原作である限り、「レ・ミセラブル」が色あせる事は無いのだろう

もちろんこれはあくまでもミュージカルヴァージョンとしての「レ・ミゼラブル」だ。あまりにも長い原作を舞台や映画で描き切るのは不可能だし、このミュージカルだってかなりはしょってある。まあ、子供向けの抜粋版「ああ無情」みたいなもので、これも一つの分身なのだ。でもこうしてまた一つ分身ができていくという事が、この原作がいかに不滅の魅力に満ちているかを示している
もしアカデミー賞をこの映画にあげるとしたら、一番ふさわしいのは原作賞という事で、ヴィクトル・ユゴー氏ではないでしょうか・・・