毎年6月の女王の誕生日前と年末になるとList of Honours(名誉賞受賞者)が発表される。国と社会に貢献した国民に、その業績を讃えて女王から送られる名誉賞=勲章だ。もともとは軍隊のサービスに対して国王が与えていたものだが、今はそれとは別に一般市民に対しても送られる。受賞した人達はSir(サー)の称号を付ける事が認められる。ファーストネームに付けて呼ぶので、例えばアントニー・ホプキンズ氏はSir Anthonyと呼ばれる。

今年はオリンピック/パラリンピックが盛り上がり、金メダルだけでも両方で65個を獲得したチームGB。秋に発表された「今年度のスポーツ大賞」でも誰が大賞になるか議論が持ち上がった。獲ったメダルの数なのか、これまでのキャリアなのか、人気度なのか、賞与の尺度を決めるのは頭が痛いはずだ

2013年のNew Year Honoursが発表され、サイクリストのブラドリー・ウィギンス氏に一般市民に与えられる最高のナイト=Knighthoodが与えられた。彼は英国人で初のツール・ド・フランスの勝者で、オリンピックでも金メダルを獲った。おりしもサイクリング界は、過去に7年連続でツール・ド・フランスのチャンピオンになったランス・アームストロングがドーピングの発覚ですべての記録が抹殺されるというドラマに揺れ、今年のスポーツ界で大きな話題になった。他に女性アスリートでナイトの位(女性はデイム=Dameと呼ばれる)をもらったのが、パラリンピックサイクリストのサラ・ストーリー選手だ

その他スポーツ、演劇、音楽、アート、文学、化学、ファション、、、、と多種のジャンルからその業績を認められた人達が名前を連ねている。このランクが興味深い。イギリスのKnighthoodのランクは5段階だ。最高のGBE=Grand crossはほとんど一握りの人達にしか与えられない。通常は王家/貴族/軍高官が主で、一般に人には殆ど無い。一般の人達が貰える賞のランクとしては上からKBE/DBE  (男性はKnight,女性はDame ), CBE, OBE, MBEとなる。CはCommander、OはOfficer、MはMemberの略なので、本来が軍隊のランクから来ているのが解る。

車椅子のパラリンピアンで今回4つの金メダルを獲ったデイヴ・ウェアー氏はCBE。陸上のモー・ファラー、ジェシカ・エニス両氏もCBE、パラリンピック水泳選手のエリー・シモンズ、テニスのアンディー・マリーはOBE。このあたりのランクの付け方が微妙な所だ。官僚の中にも「もっとパラリンピアンの実績を尊重すべきだ」と意見している人もいる。私もウィギンズ氏がナイトなら、車椅子のウェアー氏もナイトにしてもいいんじゃないか、とも思う

スポーツ以外で見てみると、ファッションデザイナーのステラ・マッカートニーや俳優のユアン・マクレガーがOBE。CBEには元首相の夫人で法廷弁護士でもあるシェリー・プレアー、そしてミュージシャンのケイト・ブッシュ。美貌のバイオリニスト、ニコラ・ベネデッティがMBEとなっている。

Kate Bush、、、私は彼女が大好きで、私が本当に凄いなあ〜と尊敬の念を持ってファンでいるのは彼女と矢野顕子さんくらいなのだ。でも、よく考えると、ここ数年の間に彼女がどんな活躍をしていたのか、ほとんど聞いた事が無い。最期にフルアルバムを出したのが2005年で、この1ー2年の間には以前の曲を全く編集を変えてレコーディングし直した「Director's Cut」と、雪をテーマにした「50 words for snow」を自身のレーベルから出したくらいだ。それでも今年のオリンピックの閉会式には新バージョンのRunning Up That Hillがフィーチャーされていたので、「ああ、イギリスのミュージックシーンは彼女を忘れていないのだな」と嬉しかったのだ。そうしたらいきなりCBE・・・

ファンとしてはとても嬉しいけれど、オリンピックで複数のメダルを獲るまでにかかった努力と忍耐の道のりを考えると、ランク付けにマークが付くものもある、という事なのだ。もちろん最初はMBEで、その後の活躍によって数年後にOBE やCBEを新たにもらうという事もあるけれど、既に2度のオリンピックで合計6つの金メダルを獲った人が、これ以上どうすればKnightになれるのか・・?という疑問。やっぱり知名度/人気度というのも大きく関係しているのだと思わざるを得ない

もちろんみんなSirの称号が欲しくてやってる訳じゃない。むしろ、今までに自分のやって来た事がいきなり名誉という形で女王から勲章を与えられる事により、「イギリス国民として国の為/女王陛下の為に働いているのだ」という意識を押し付けられてしまうのではないだろうか。それまではアナーキー気取りで過激な活動をしてきたアーティストが、オーダーを貰う事が決まったとたんに、「大変光栄に思います」なんていきなり良き英国民になってしまうのは滑稽だ

そういう意識を押し付けられるのが嫌なのかどうかは解らないけれど、私の大大好きなデヴィッド・ボウイー氏は2度にわたってオーダーの授与を辞退している(最初はCBE,後にナイト)。前ロンドン市長のリビングストーン氏も確か辞退したと記憶している。だってねえ、The Order of The British Empireですものね、、、大英帝国のコマンダーとして、この偉大なる英国という船に乗りなさいという事のようにも聞こえるわけで・・・まあそれでも一般人にとってはこの上ない名誉ということなのだ

年末番組でオリンピック特集見てたら、水泳競技をやっていた。マイケル・フェルプス氏がイギリス人だったら、間違いなくナイトの称号を貰ってる事だろう