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ルパート・エヴェレットがオスカー・ワイルド役をやるというので、これはいいかも、、、と思ったら大当たりだった今回の芝居「The Judas Kiss」。
この作品は98年にリアム・ニーソンがオスカー役で初演されたもので、オスカー・ワイルドとその恋人だったアルフレッド・ダグラス卿との関係を軸に、ワイルドの人生における分岐点となる2つの日に焦点をあてたものだ。別にオスカー・ワイルドの伝記的なストーリーではない。だからオスカー・ワイルドを知っていればもっと面白いし、知らなくても芝居として理解出来る本になっている。オスカー・ワイルドが当時は法的に禁じられていた同性愛の為に投獄されていたというのは有名な話だ。この本は、逮捕直前と服役/釈放後の2つの日の出来事を描いている。実際の二人の写真

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オスカーは貴族の息子であるボジー(ダグラス卿の愛称)と同性の恋人関係にあった。彼等の年の差は16歳。当時はまだ同性愛は法律で禁じられていた時代で(広く行われていたにもかかわらず)息子とオスカーの関係を感づいたボジーの父、クイーンズベリー侯爵は息子に対してオスカーと離れるようにと再三諭していた。この父子はそれ以前から折りが悪く、ボジーは父の「勘当するぞ」との言葉にも耳を貸さずにオスカーと一緒にいる事を主張し、むしろ父親の事を嫌悪して罵る手紙を送りつけたりしていた。オスカーを巡って親子関係は悪化し、侯爵はある日クラブのメンバーズカードにオスカー・ワイルドが同性愛者であると書き付けたことから、とうとうオスカーは侯爵を「名誉毀損」で訴える事にする。しかし裁判になってみると名誉毀損どころかオスカーの同性愛癖を裏付ける証人が次々と出て来て、逆に不利だと諭す弁護士や友人達の言葉に、オスカーは訴訟を取り下げる。すると今度は侯爵側がオスカーを「同性愛者」として訴える事態になってしまう。(このいきさつは一幕の間の台詞で観ているほうが理解できる)

一幕はこの裁判を取り下げた日に焦点を当てている。ちなみにオスカーはこの時41歳、ボジーは25歳。今夜にも逆に警察がオスカーを逮捕しに来るだろうから、1分でも早くフランスへ逃げるようにと諭す周囲の焦りをよそに、オスカーはホテルの一室で自分の主張/美学を語って国外へは逃げない事を宣言する。父と恋人が争う裁判の張本人であるボジーは、まだ若く、奔放で我が儘な子供のような貴族の坊ちゃんで、大人として物事を深く理解する力の無い若者である事が解る。イライラするまわりをよそに食事を頼み、ワインを開けて逮捕/懲役を覚悟するオスカーを、ルパート・エヴェレットがフラムボヤントに、ウィットな台詞を操っていて、メイクからして容貌までオスカー・ワイルドになっている

一幕ではオスカー役のエヴェレット氏が大柄な身体(彼はとても長身な上、この役では衣装の下にを着ていると思われる)と強い目線で若干大袈裟に演じているのがデカダン調で良い。台詞の端々にワイルドらしいウィットに富んだ言い回しが散りばめられいて、それを見事に花咲かせている。最初に舞台に出て来た時は「ん?今日は代役の日なのか?」と思った程、ルパート・エヴェレットの容貌からかけ離れていたので驚いた。でもよ〜く顔をみると確かに彼なので、メイクと衣装の威力は凄いと感心してしまった。ちなみにリハーサル写真は普通に彼らしい顔。
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彼を舞台で観たのは本当に久しぶりだし、いわゆる中年以降になってからは観た事なかったからなあ〜〜。前回「ピクマリオン」のヒギンズ教授役で出ていた舞台はあまり評判よくなくてパスしたし・・・でもこのオスカーはまさにはまり役と言っていいと思う

舞台は彼が滞在しているロンドンのホテルという設定で、ホテルのスタッフ達が良いアクセントで場面を支える。派手な恋人同士のオスカーとボジーの間で、もうひとり、オスカーのかつての恋人で今でも義理堅い友人であるロバート・ロスが、ボジーとは対称的なキャラクターでオスカーを親身になって気遣っている。

2幕は2年間の服役を終えたオスカーが周囲の反対をよそにボジーと再開して居を構えたナポリでのある日。オスカーは重労働を強いられた2年間の服役でやつれ、老い、2回りも小さくなってしまった感じだ。それとは反対にボジーは相変わらず奔放で、オスカーの前でも平気で現地の若い漁師を家に連れ込んで来る。子供っぽいヒステリックな面や我が儘さが、彼がまだ若くて自由な若者である事をいやでも強調していて、衰えたオスカーとの対比が残酷だ

この日、ボジーは連れ込んだイタリア人の若者と連れ立ってクラブへ遊びに出かけて行き、その間にたまたまナポリを訪れていたロスがオスカーを訪ねて来る。立ち寄っただけのひと時の会話でも、彼が今でもオスカーの忠実な友人であると解る。オスカーを置き去りにして遊び放題のボジーとは対称的だ。そしてその夜、オスカーは家に戻って来たボジーが2階の部屋を歩き回りながら荷造りしている足音を聞く

1幕とはうって変わって、2幕ではずっとオスカーは座りっぱなしだ。立ち上がるのもままならない、衰えた様子で、2年間の服役がどんなに彼を弱くしてしまったかが解る。逆にボジーは今を盛りとキラキラ輝くような残酷な若さを振りまいていて、実際全裸に途中からシーツを巻いただけの身体は眩しい程白く、若い。彼はまだ27歳だ。今なら侯爵家の息子としてまだやり直しができる。ボジーは最期には、自分がホモセクシャルである事さえもオスカーに否定して、出て行ってしまうのだ

これはオスカー・ワイルドの話ではない。同性愛とはいえラヴラヴで怖い物知らずだった二人の、周囲が全く眼中にないような夢中な時間と、再会しても元には戻れずに食い違っていく残酷な結末のストーリーだ。ちなみに出演者7人中の4人(男性3人、女性1人)が全裸になるシーンがあるのだけれど、本当に彫刻のように綺麗な身体で、これまたワイルドの美学の一部か、、という感じ。センスの良い台詞が笑いを誘う。かなり笑った。The Judas Kissというのは、ユダがキスを合図にキリストを売り渡したその裏切りの口づけの意味だ。この芝居では、暗い部屋でオスカーにキスを残してボジーが出て行くラストシーン。

二人のその後はというと、3年後にオスカーはパリで病死、ボジーはその後、貴族生活に戻り結婚し、詩人/作家として74歳まで生きた、後年にはオスカーとのソドミーな関係を否定している

Hampstead Theatreは小劇場でチケットはソールドアウトだそう。でも来年早々にウェストエンドに進出が決まった。絶対おすすめの芝居