なんと、10日も経ってしまった・・・いきなり寒くなって、もうオリンピックがあったのは随分前のような気がするこの頃。寒くて暗い秋/冬こそが劇場シーズンと言っていいかもしれない、というわけで、今回はコメディーを観て来た。大好きなAlan Ayckbournの本で今回の演出はトレバー・ナン氏。トレバー・ナンといえばシェイクスピアからミュージカルまで幅の広い演出家だ
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いろんな芝居/ステージのジャンルがある中で、コメディーにはいくつかの手法がある。誰が観ても笑えるいわゆるギャグやドタバタもの(Slapstick)、プロットでハプニングが仕掛けられて、それに対する登場人物のリアクションやそこから発展する次のハプニングで笑いを起こすシチュエーションのも(Sitcom)、そしてストーリーも登場人物も普通で真面目にやっているのに、キャラクターの心情や話の展開で回りが笑わずにいられないというもの

Alan Ayckbourn(アラン・エイクボーン)という劇作家の名前は日本では知られているのだろうか・・・?
おそらく国外で上演される類いの本ではないからあまり知られていないかも。でもイギリスでは人気の戯曲家だ。彼の書く本はコメディーといわれるのだけれど、前述した中の最期のパターンが多い。ストーリーやシチュエーションは普通なのだけれど、ウィットな台詞とその場の人間の反応で笑いを引き起こす→演じている方はもちろん大真面目→だから爆笑、というパターンだ。三谷幸喜さんの書く本と似た部分があるかもしれない。出て来るキャラクターもそれぞれみんな曲者いや、個性的。すべての役者に見せ場が用意されている

A Chorus Of Disapprovalは実は80年代の本で、今までも何度か上演されているのは知っていたけれど、今回初めて観た。「Begger's Opera」を上演しようとしているアマチュア劇団に、ガイというちょっと内気で基本的に何事も断れないお人好しな男がオーディションにやってくる。演出家のダフィド(デヴィッドのウェールズ語発音)はやたらとウェールズにこだわっている昼間は弁護士の男で、ガイがオーディション曲にウェールズの歌を持って来たと聞くと、勝手に自分で歌ってガイの歌をろくに聞かずに採用してしまう。小さな街のアマチュア集団は個性豊かな人達が集まっている。彼等が上演しようとしている「 Begger's Opera」というのは1728年にジョン・ゲイが書いた3幕のオペラで上流階級や政治家達を痛烈に風刺している。200年後にベルトルト・ブレヒトの戯曲にクルト・ヴァイルの曲で書かれた「三文オペラ」のオリジナルだ。三文オペラの登場人物もストーリーもほぼベガーズオペラに沿っている。

お人好しのガイはダフィドの妻ーハナに思いを寄せられ、同時に夫婦でスワッピングをスリルとしているフェイとも関係をもつ。ハナとフェイは全く正反対の女性。少女のような可憐さを残した良妻賢母でしっかり家と子供を守っている一途なハナに思いを寄せながらも、ワイルドで奔放なフェイに迫られると断れないのだった。二人の人妻とよろしくやってる間にも劇団内ではあれこれといろんな事が起こり、最初は端役だったガイは途中で役を降りてしまった役者達の為にひとつ、またひとつと配役替えに合い、とうとう主役のマクヒース役に就いてしまう

そう書くと、なんだかガイという男がは実はしたたかで、どんどん調子に乗って色男風を吹かせるのかと思うかもしれないが、実は全くそうじゃない。彼はあくまでも受け皿なのだ。断れずに受けてしまううちに何故かそういう事になってしまう・・・騙そうとか、のし上がろうとか、そんなつもりは全くないシャイなお人好しなのだ。彼が本当に事の深刻さを考えるのは、ダフィドがハナとの夫婦関係の事をガイに打ち明けてからだ。恋愛以外にも、あちこちの劇団員から彼の会社が関係している土地の事で「頼み事」をされてしまう。最期にはあっちにもこっちにも良い顔をしてしまったツケが回ってきて、妻との関係を知って激怒したダフィドをはじめ、みんなから総スカンをくらってしまう

そんな話が「ベガーズ・オペラ」の中の3角関係と平行して進んでいく。オペラのリハーサルという事で、ミュージカルでは無いけれど劇中には歌うシーンもそこここにあって、役者達がみんな歌える人達だと解る。ちなみにガイ役のナイジェル・ハーマン氏はBBCのソープオペラ「Eastenders」で広く顔を知られるようになった後、番組を離れてからもコンスタントにウェストエンドの舞台に出ている人だ。彼だけじゃないかなあ〜、Eastendersから出た役者でその後もこんなに活躍してるのは・・・去年はミュージカルの助演男優としてローレンス・オリビエ賞を取ったし、毎年のように舞台に出てる(ソープオペラについてはこちらをどうぞ)ダフィド役には今回コメディアンとして人気の人がウェストエンド初舞台という事で注目されている。素晴らしく良いよ。

登場人物みんなに役割と見せ場がある群像劇、歌あり秘密あり、つかみ合いもあり、滑稽で情けなくて大笑いできる芝居、そんな所が三谷幸喜さんの書く本と似たものがある。コメディーなのだけれどそれ以上にヒューマンドラマなのだ。三文オペラでもベガーズオペラでも知っている人はご存知の通り、マクヒース(三文オペラではメッキ)はまさに絞首刑になるという所でいきなり強引などんでん返しでハピーエンドになってしまうのだが、この芝居自体も最初のシーンでは舞台終演後、皆から総スカンを食らったガイが誰からも相手にされずに一人淋しく出て行く、、、と思ったところから回想という形で芝居が始まり、最期のシーンは舞台が終って皆が主役を演じ切ったガイと抱き合って喜ぶという場面に変わっている

沢山笑った後に、なんだか心にしっとりしたものが残るような芝居、ドタバタやギャグもののコメディーはちょっと好みじゃないのだけれど、こういう舞台はいつでも観たいわ・・・
ちょっと探してみたら、なんとこの芝居アントニー・ホプキンズ&ジェレミー・アイアンズのコンビで映画化されていたちなみに映画の日本語タイトルは「浮気なシナリオ」ですと・・・