あっという間に夏が去り、パラリンピックの閉会式で「終ったな〜」と思っていた所に、ダメ押しのように締めくくってくれた、テニスのアンディー・マリー

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実は前回のブログを書いている時、USオープンの決勝がまさに行われていて、テレビではやってなかったものの、ネットの速報サイトでスコアーをライヴで追っていた。(有料のスポーツチャンネルでは実況中継してたみたいだけど、私がテレビで観たのは翌日になってから、ユーロスポーツチャンネルでダイジェスト版だった)前回書いた、オリンピック/パラリンピックのメダリスト達の祝賀パレードに、テニスのオリンピック男子金メダルのアンディーはいなかった。彼はもうオリンピックから先へと抜け出していて、7月のウィンブルドンに続く、5度目のグランドスラム決勝進出を決めていたのだ

やってくれたよね〜!もう10年位前に、ティム・ヘンマンやグレッグ・ラセドスキーがそこそこの所で活躍していた頃から「1936年以来のイギリス人選手のグランドスラム優勝」が囁かれて来た。この2人も何度が準々決勝/準決勝まではいったのだけれど、結局ベスト3の壁が破れずにいた。76年振りのイギリス人選手のグランドスラム優勝、そしてアンディー自身にとってはなんと5度目の決勝戦での悲願の優勝だった

オリンピック選手達との凱旋パレードには参加できなかったものの、今週になってやっと生まれ故郷のスコットランドにある街Dunblane=ダンブレインに戻った彼は地元の熱狂的な歓迎を受け、ヒーローとして街を挙げて迎えられた。オリンピックではシングルでの金メダルと混合ダブルスでの銀メダル。健闘を讃えて金色に塗り替えられた郵便ポストの前で、地元の子供達のヒーローとして街中の祝福を受けた。

スコットランドのDunblaneは、人口9000人にも満たない小さな村だ。聞いた事がなかった小さな街を一日にしてイギリス中の人が忘れられない名前にしたのは、1996年の3月に起きた小学校での大量殺人事件だった。この街の小学校は3つだけ。そのうちのDunblane Primary Schoolに一人の男が銃を持って侵入し、体育館にいた児童16人と先生1人を殺害した事件は全国に大きな衝撃を与えた。もちろん私も覚えている。数日は新聞やテレビのニュースはそればかり。犯人自身も最期は体育館で自殺を遂げてしまったため、本当の詳しい動機は今もって解らずじまいだが、ここ数十年の英国犯罪の中でも最も残忍で悲惨な結果となった3大事件の一つに入っている。イギリス人にとっては、Dunblaneと聞けばその後にはmassacreがつく筈だ。街の名前が大量の児童殺害事件の代名詞になってしまったのだ。

ミュージカルの「London Road」を観た時に、これは汚名を被ってしまった街の人達の再生を目指す姿だという事を書いたけれど、このダンブレインもまたアンディーというヒーローの出現で街のイメージが変わる事を切に願っているに違いない。実はアンディーはこの小学校の出身、しかもこの虐殺事件の当日に学校にいた児童の一人だった。テニス選手として頭角を顕し始めた10代の頃には、インタビューであの日の事を聞かれたりしていたけれど、本人はあくまでも「幼かったので何が起きているのか理解できていなかった。あの日の事は話したくない」と答えていた。それ以来その話題にはふれずにきたけれど、出版された彼自身の伝記の中では、犯人の男が関係していたクラブに参加した事を覚えている話を載せている。

Andy+Murray+Returns+Dunblane+5wqWourb7Vgl


朝から雨が降っていたDunblaneで、街の人々は4-5時間も彼の凱旋パレードを待っていたという。決勝戦のあった夜は、イギリス時間は夜中の2時過ぎになったにもかかわらず、地元のパブに集まってスポーツチャンネルで観戦し、勝利を喜び合ったのだ。小さな街から生まれたヒーロー。彼の今までの努力と長い道のりと悔しさと、それらをいつも分かち合って応援し続けて来たダンブレインの人達。やっと最初のグランドスラムを手に入れたアンディーの姿に、「これでDunblaneの街はアンディー・マリーの故郷として誇りを持って存在できるんです」と語った人達がいた。大量殺人としてではなく、これからもっといくつものグランドスラムチャンピオンになってくれるだろうアンディー・マリーを街の代名詞にしたいという地域住民の切なる願いだ

そうなってくれるといいね。まだ最初の1個だけれど、これから彼がどこまで上っていかれるのか・・・?アンディーにとってもこの夏はきっと忘れられない夏だろう。フレンチオープンでは早々に退散し、ウィンブルドン決勝での惜敗、そして1ヶ月後のリベンジ=オリンピック優勝、そして9月のUSオープン優勝。きっとまだ夢をみているような気分かもしれない。夏の夜の夢・・・でも夢じゃないよ。これからが彼のキャリアのスタートなのだろう。これからが本当の勝負だよね。Dunblaneの街の人達はきっとこれからもずっと地元のヒーローとして彼を支え続けていくだろう。もちろん地元だけじゃないのだけれど、やっぱりダンブレインの人達の思いは並々ならぬものがあるのだろう

15歳で地元を離れ、プロのテニスプレーヤーになるべくスペインのアカデミーに留学したアンディ。今は一年を通じて世界中を転戦しているので、故郷のDunblaneに戻る事はなかなか難しいそうだが、それでも家族や古い友人達は今でも故郷にいる。地元のヒーローとして世界に羽ばたいていくのは、勇気を与えられると同時にものすごいプレッシャーでもあるのかもしれない。一時は悲劇の現場となった地元小学校に通う子供達に、次世代への希望を与えたというのは、単にテニスプレーヤーとして一つのタイトルを手にしたという事だけじゃない意味があるのだろう。

やっと初めの一歩。これからもっとイケるだろうか、、次はワールドランキングの1位になれるのだろうか・・・?
頑張れアンディ!!