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前々から一度観たいと思っていたジャコビアン悲劇のひとつ、「The Duches of Malfi=マルフィー公爵夫人」を観た。このジョン・ウェブスターのジャコビアン悲劇は、以前全く別のプロダクションで観たかったのがチケットが取れずに残念だった。今回のプロダクションはDonmerのジェイミー・ロイドの演出でレビューは星4つが並んでいたので、金欠にもかかわらずイースタースペシャルオファーという事で良い席を格安でゲット!

時期的にはシェイクスピアの後輩、トーマス・ミドルトンやジョン・フォード等がドロドロの復讐劇をいくつも書いたこの頃の作品一連は「Jacobien Tragedy」と呼ばれる。ジャコビアンはジェイムス1世の時代で、エリザベス1世のすぐ後だ。(英語名のJamesはヘブライ語のJacobからきている)復讐悲劇とも呼ばれ、内容は裏切り、陰謀、復讐、殺人、がてんこ盛りで、その始まりは禁断の恋、密通、レイプ、近親相姦といったドロドロしたものばかりだ
ミドルトン/ロウリーの「チェンジリング」やフォードの「あわれ彼女は娼婦」、そしてジョン・ウェブスターの「白い悪魔」やこの「マルフィー公爵夫人」はどれも舞台が死体だらけになる

この芝居のプロットは未亡人になってしまった若い公爵夫人。アラゴン出身でアマルフィーの公爵に嫁いだ彼女の名前は何故か出て来ない。彼女には双子の兄(フェルディナンド)と長兄の枢機卿がいる。枢機卿は愛人を囲っていて、未亡人になったばかりの妹を見張るようにと、自分に仕えて汚い仕事を引き受け、やっと奴隷船での刑罰から戻ったばかりのボゾラにスパイを命じる。一方フェルディナンドは執拗なまでに妹の再婚を警戒し、彼女に硬く再婚しないようにと釘をさす。これは彼女の再婚によって公爵家の莫大な財産が自分に回って来るチャンスが減るのを防ぐ為と、もう一つは彼女に対して近親相姦的な愛情と嫉妬を持っていたためだ。にもかかわらず、彼女は自分の家従であるアントニオと秘密に結婚してしまい、3人の子供を設ける。公爵夫人とアントニオは二人の関係を公には知られないようにしていたが、やがてアラゴンにいる兄達にも疑惑の噂が届く。アントニオと長男は彼女と別れて直前に逃れたが、身分の低い男との間に子供を設けたとあって激怒した兄は、妹の居場所を探し出して彼女と二人の子供を監禁し、ボゾラに殺害させる。彼女の死体を前に公爵家の財産が自分に回るようにとの計算高い心を見せたフェルディナンドをみて、ボゾラは次は自分が殺させる事を予感し、サービスの報酬を要求するが、フェルディナンドは取り合わない。ボゾラは一時的に息を吹き返した公爵夫人にアントニオと長男は無事な事をささやき、彼女が息絶えると逆に兄達への復讐を決意する。
というわけで、後半はもう次々と皆殺されてしまう。殆どはボゾラによって。


今回の演出はジェイミー・ロイド。彼の舞台はいくつか観たけれど、私の感想では演出的に良かったものとそれほどでも、、、の2つに別れる。ミュージカルだった「Piaf」と「Passion」はどちらも凄く良かったけれど、「サロメ」はかなり不愉快だった。今回の演出はその両方。場面によって「お!いいなあ〜」とおもうシーンと「物足りないなあ〜」というシーンに分かれた。特に連続殺人になる後半が、あまり緊迫感もなく、ドロドロした心情も実際の血も出て来ないので、なんだか実感が無い。以前にナショナル・シアターで観た「Women Beware Women」のほうがずっと効果的に演出されていた。(これは本当に巧くできていたこちらです

何故、こんなドロドロの惨劇が400年経っても上演されるのか、それは人間の醜さ、弱さ、残酷さが、罪と解っていてもどこか心の隅をゾクゾクさせる、半分エロティックな誘惑があるからだ。その禁断の魅力が舞台で出てきてこそ面白いのだ。

公爵夫人役のEve Bestは素晴らしい女優さんだし全体としては面白い芝居だった でも何かがちょっと欠けてるような感じ。それが心をくすぐるエロティックな誘惑。舞台から裸にした台本だけを読めば、それだけで面白い舞台になるのは解る。17世紀の舞台という事で舞台セットや衣装等はとても絵としては良かったけれど、公爵夫人をとりまく登場人物の持つ心の汚さが今ひとつだった。ボゾラを演じた俳優はスコティッシュの人で、彼のそのままのスコッツアクセントがいかにも手を汚して来た感じのする泥臭さを出しているものの、今ひとつ陰のパワーが弱いのもちょっと残念。でも演技よりも演出じゃないかと思うんだけど・・・

本としては充分面白いので、いつか違う演出でまた是非観てみたい。プロットが単純でちょっと捻りが少ないとは思うけれど、そういった意味ではやっぱりシェイクスピアやミドルトンのほうが筆は上かな。