6月からずっと楽しみにしていた教授=坂本龍一氏のTrio Tour。前回、2年前の教授のコンサートはピアノひとつの素晴らしい構成で、本当に1音ずつしみじみと聴かせてもらった。(その時の感想今回は久しぶりのトリオ!なんといっても1996のトリオコンサートはもう今でも身体が震えるくらいの感動だったので、また新たにトリオでツアーをすると聴いてとてもとても楽しみにしていた

坂本さんは何度もロンドンに来ているけれど、コンサートに行く度に日本人よりも現地の観客が増えている。2階席のてっぺんまでぎっちり埋まった客席を見回したうちの彼が呟いた。「日本人がいっぱいかと思ったら、むしろほとんどいないね、、、?」もちろんいますよ!でも割合として絶対に少ない。10人に1〜2人くらいか・・・?

教授のピアノに、チェロはもう坂本さんとは長いつきあいのジャック・モーレンボウム氏、今回のバイオリンはオーディションで選んだというジュディー・カン嬢。ジャックさんのチェロはこの15年でずっとずっと深みのある音になっている。前回のトリオでは、バイオリンが本当に切れの良いガラスのようで、空気を切るような音だったけれど、今回のジュディーさんのバイオリンはとてもとてもソフトでデリケートな音を出している。(きっと坂本さんの注文が厳しかったんじゃないかなあ〜

舞台はシンプルなで、証明のスポットが白・の3色で音楽をバックアップする演出。ピアノの前に座った坂本さんを見て「教授も年取ったんだなあ〜〜」なんてぼんやり思ってしまう。初めての生演奏は武道館でのYMOの散開コンサートだった。そうだよね、年取るはずだわこっちも・・・ちょっと攻撃的だった若い頃のテクノミュージックから、本来のクラシックをバックグラウンドにした映画音楽の数々、そしてピアノへの里帰り、オーケストラからトリオ構成、、、坂本龍一の音楽を聴きながらもう半生以上の時間が経つ。いつも私の人生にあった彼の音楽

年と共に1音へのこだわりがどんどん強くなっていくような気がする。ちょっとの指の匙加減がものすごくデリケート。それは教授のピアノだけじゃなくて、チェロもバイオリンもそう。今回の曲構成は全体にスロウなアレンジで、序盤から数曲はひたすらゆったりしていたから、よく知らない人はちょっと退屈に感じたかも。でも何度も聴いた曲を違うテンポ、アレンジで聴くのが醍醐味なので、美しい音に耳を傾ける。今回、MAY in the backyardがとても良かった。チェロとヴァイオリンが1996の時よりも巧みにを表現していて、甘えたりすねたり、いたずらしたり、という猫特有の性格が見事に音になってお芝居のようだった

Forbidden Coloursやラストエンペラー、シェルタリング・スカイあたりの名曲はもちろん、私個人としてはHappy Endが嬉しかった!! ゆっくりテンポで始まったコンサートがどんどん心地よくなって、ひたすら終って欲しく無い。ずっとずっと聴いていたかった。アンコールは4回。パリでは千のナイフをやったんだね。う〜ん、聴きたかったなあ〜・・・? 1996と比べるとドラマチックさはかなり抑えられていたけれど、夜のしじまに・・・という感じがまさにピッタリの美しい音楽の夕べだった。1音の美しさ。教授の音のこだわりがここにある

鍵盤に耳を傾けた姿勢で、時々眼鏡を押し上げながら慎重に指で音をコントロールする坂本さんの姿を観ていたら、60になっても70になっても美しい音を弾き続けて欲しいと思ったよ、、、 黒い頬紅にルージュを塗ったテクノカットの坂本龍一はもう過去だけれど、もっともっと音楽をください・・・クラシックでも、ポップでもテクノでも、、、

ところでちょっと気になったのが、ホールのテラスにいた数人の人達。このRoyal Festival Hallは客席に入るドアでチケットをチェックするので、Foyerと呼ばれる劇場ロビーまでは誰でも何時でも入れる。実際カフェやバーは1日開いているので、ランチをしたり仕事帰りに一杯飲んで行く人も多い。客席に入るドアの横がテラスになっていてテーブルがいくつかあり、そこにラップトップを置いて座っている人が数人いた。劇場ロビーを図書館代わりに使ってるのか、、と思ったのだけれど、そういえば、このコンサートはUstreamでライヴ発信されていたのよね・・?

ひょっとしてこの人達、コンサート会場ロビーでウェブ中継を観ながらドア越しに漏れて来る音を聴いてたのかしら・・・?? 新手の無料コンサート? だとしたらあっぱれ
でもねえ〜〜、やっぱり音楽っていうのはその空気の中で聴くのは違うよね。耳から入って来るだけじゃない、空気を通して皮膚や髪からも音楽が入ってくるんだよ。それがやっぱり生の音っていうものじゃない?