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大劇場のミュージカルもロンドンの目玉だけれど、最近はむしろ「面白い芝居」を観たい。もしロッタリーチケットが当たればもう週に2回くらいは芝居を観て歩く生活をしたいものだけれど、現実はそうはいかない。なんたってお高いのよ! せいぜい月に1本が良い所なので、どうしても厳選してしまう。レビューはかなり参考にはなるけれど、やっぱり当たり外れは観てみないと解らない。新作の本ならなおさらだ。

Bette and Joan」、これは戦前のハリウッドを代表する2大スター、ベティ・デイヴィスジョーン・クロフォードの事だ。育った背景や4度の結婚、同時期に銀幕のスターとなり、共にアカデミー賞を穫る等共通点があるにもかかわらず、性格的には全く相容れず犬猿の仲だったというこの2大女優が、50代になって初めて競演する事になった映画での楽屋話。上演されているのはWestEndの中でもスタジオタイプの小劇場、Arts Theatre。最近はこういった小空間劇場で面白い芝居に出会う事が多い。

ポーズを取って完璧な魅力をカメラに向ける事が第一、というタイプのジョーンは、撮影所での日課も規則正しく、すべて優雅に美しく、ファンにはにこやかに、スタッフにもねぎらいの言葉を忘れない。一方10代の頃から女優になるべく野心を燃やし、ブロードウェイでデビューした後にハリウッドに渡って映画女優になったベティは、むき出しの演技力こそが女優の力と信じておべっかをつかわず、感情の振り子に素直になってありのままの飾らない自分で勝負するタイプ

当然の結果が2人のライバルにさえならない敵対意識。ジョーンにとってベティは「下品で、我が儘で、機嫌が悪いとあいさつもろくにしないあばずれ」そしてベティにとってジョーンは「演技の勉強もろくにした事がない、見てくれだけのポーズ屋。皆に良い子ぶる態度がすこぶる不愉快」という事なのだ。ところが2人共もう50代で、最近はハリウッドももっと若い女優達に注目が移り、さすがに落ち目という現実から脱皮するためにとうとう長年拒んでいた「競演」を果たす事になったのだ。撮影所の楽屋でそれぞれが自分を自画自賛して相手をこき下ろす独白台詞の応酬で芝居は進んで行く。実際当時のこの2人の犬猿ぶりは有名で、撮影中の不協和音もかなり聞こえていたらしい

演じているのはグレタ・スカッキ(Greta Scacchi)アニタ・ドブソン(Anita Dobson)。グレタの事は日本でも知られているだろうか?80年代後半から90年代にかけていろんな映画に出ていたけれど・・・「推定無罪=Presumed Innocent」とか「ジェファーソン・イン・パリ=Jefferson in Paris」とか「エマ=Emma」とか、、?実は私は当時の彼女がとても好きだった。役者としてというより、イタリアとイギリスのハーフで目のパッチリとした顔立ちがスクリーン向きで可愛かったし、何といっても身体が綺麗だった!! 彼女はいろんな映画で結構惜しげもなく脱いでいたので、いつも「綺麗だなあ〜」とうらやましいというか、憧れというか、、そんな思いで観ていたっけ。

アニタの事はおそらく日本ではほとんど知る人はいないかも・・・彼女は80年代半ばに始まって今なお人気を誇るBBCの看板ソープドラマ、「EastEnders」(東ロンドンのイーストエンドの一角に住む人々)でパブのランドレディー役で80年代に人気者になった。今でもアニタ・ドブソンといえばイギリスに住む人にとっては役名の「アンジー」で認識される。プライベートではバンドQUEENのギターリスト、ブライアン・メイ氏の奥さんなので、そういった方が解り易い人もいるかも・・・ 「イーストエンダーズ」以来、他ではほとんど大きな仕事は聞こえてこないけれど、私は以前に彼女を舞台で2度観ている。

こういう構成でのプロダクションの場合、当然「ベティとジョーン」「グレタとアニタ」という2組の対比を考えないわけにはいかない。ともすると、本の台詞と同様に実際に演じている女優達の間にも火花がバチバチ・・! という事にもなり易いと思うのだけれど、これがうまくかわされている。本としては確かに面白い独白/台詞の掛け合いがあり、ユーモアと皮肉もたっぷりで笑い処も多い。でも全体的に軽めに抑えているような感じだ。本来この2人は子供の頃から育った家庭環境が不幸だったり、愛した男性と結ばれないかと思えば4度も結婚したり、一世を風靡した時期が去って主演としての価値も下がり始めている時期で、その辺の心の闇や痛みを後半でもっと引き出す事も可能だった。

でもanton Burge氏の台本は、その「奥底の痛み」をちょっと浮き出させて観客に解らせる程度で収まっている。これが芝居としてちょっと物足りないと感じるか、重くなりすぎないと取るかが微妙な所。私はギリギリ後者として成功していると思った。2つの相反するキャラクターをコミカルに描く事で、演じている2人の女優達をBette and Joanに被らせないですんでいる。アニタとグレタはひたすらベティとジョーンをそのイメージ通り(伝説の通り)に演じる事に集中していて、お互いの間に苦々しい火花はない。むしろ本来仲良しの2人の女優が犬猿の仲をコミカルに演じているという印象だ

左が映画撮影当時のベティとジョーン 右が今回のポスター写真のアニタとグレタ
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大嫌いな相手の事をず〜っと悪口を言ったり、いやみを言ったりするちょっとBitchyな気分の良さ。そういう意味ではもちろん2人ともお互いに負けては いない。それにしても、、グレタの体型の変化はかなりのショックだったわ! 以前は憧れた彼女も50歳。さすがにおばさん体型で顔もっぽっちゃり・・・アニ タがまた痛々しい程に痩せっぽちだから、余計にグレタがデカく見えちゃって、、、しばらくショックから醒めなかったわ〜〜、、、でもベティ・デイヴィスに そっくりだった

50代以降の女優2人が楽しんで演じられる芝居だ。日曜マチネに丁度良い・・・