都心と違って、私が働いているエリアはとってもローカルだ。観光エリアからは遠く離れているし、ロンドンでお馴染みの地下鉄(Tube)だって通っていない。昼間にこの辺りにいるというのは、近所に住んでいるか仕事しているかのどちらかだ。

この近所には美味しいコーヒーが飲めるカフェは2件、そしてスターバックスしかないので、お昼休みはもっぱら2つ(たま〜にスタバも)のカフェに交互に通っている。そして同じようなお昼時間に同じカフェでよく見かける人というのが何人かいる。多少の差はあってもランチタイムというのはせいぜい2〜3時間内のことだし、コーヒー好きの人なら行く場所が決まってしまうからだ

いつものカフェに行くと、テレビはBBCのニュース番組をつけている。私の他に男性独り客が2人、お店のお兄さんとなんとなくテレビを観ながらコメントを交わしている。別に一緒におしゃべりしましょうというわけじゃなく、なんとなくみんなで画面を観ながら話に合流する流れになった

そのついで、といった感じで独りでいたおじさんが私に話しかけて来た。この人の事は私も何度か見かけた事がある。思いっきりエキセントリックな風貌、白髪のボサボサ頭に帽子を被り、開襟シャツでひげ面、、、といかにも変わり者の科学者か教授か、、、?みたいな感じ。いつも本とファイルを抱えているのでアカデミックな人には違いない。そのおじさんが、二言三言のコメントを交わし合ったあと、「君の事、何度か見かけたことがあるよ」と話しかけて来た。

いつもぶ厚い大きな本を読んでるよね・・・

・・・・あらまあ、これの事?

IMAG0065恥ずかしながら、自慢できるような本じゃありませんわ・・・・だって、「カサノバの自叙伝」ですもの。でもこのおじさん、何度も見かける度にいつも私が読んでるこの重そうな本に興味を持ったらしい。「あれは何の本を読んでいるの?」と聞いて来た。この日は、というより最近はこのカサノヴァの本を携帯電話にダウンロードして読んでいるので、本は持ち歩いていない。

どうしよう?と一瞬だけ考える。きっとアカデミックで高尚な本を読んでいるのかと思ったのだわ、、、カサノヴァとは言い難い、、、?でも、見かけだけならこの本もハリー・ポッターのハードカヴァーも殆ど変わらないんだし、中身がなんだっていいじゃない、、?別にこんな事で嘘を言う必要もないし・・・と瞬時に頭の中で自問自答してから、「18世紀のジャコモ・カサノヴァが書いた自叙伝です」と教えてあげた。おじさん一瞬目を見開いて「カサノヴァ、、」と呟いてる。「そう、女ったらしで有名な」と言ってニッコリ笑うと、おじさんも途端に表情をくずして笑っている。さすがにカサノヴァを知らない訳じゃないらしい

このおじさんは話を聞くと地質学者という事らしい。そこからちょっと話が弾んで、日本での地震や火山の話をした。おじさん自身も本を抱えていたけれど、これも別に地質学とは全く関係なさそうな普通のペーパーバックの小説本だった。こういうちょっとした会話というのは仕事の時にもお客さんと交わす事がある。私がイギリスに来たいきさつやら、彼と結婚するに至った過程を、さりげなく聞き出す人は少なく無い。別に困るわけじゃないのでかまわない範囲で正直に話すと、大抵は最期に「人生は不思議だね」と締めくくる事になるのだ

実はこういうのって私は結構好きだ。バス停でバスを待ってる時とか、電車で隣になった人とか、全く知らない人と一瞬のふれあいでおしゃべりする事ってこっちではよくある。日本でもきっとあるんだろうけど、私が子供の頃から育ったのは東京のど真ん中。独りで学校へ行くようになった6歳の時から、「知らない人と話しちゃいけません、しつこく話しかけられたら走って逃げなさい」と言い含められていたのだから仕方がない・・・
まだ若かりし頃、明け方にクラブから帰る深夜バスの中で大議論が始まって、バスの窓が真っ白に煙るくらいの白熱した意見交換で盛り上がった事があった

あの人って何を考えてるんだろう、、?というちょっとした好奇心が、思わぬ所で意見が一致したり大議論になったりするんだよね。小さな出会いの小さな会話。でも結構後になっても覚えていたりする。思いがけず心に残る一言をもらう事もある。だから、そういう時にはちゃんと正直に話す。見栄や嘘なんて知らない人には必要ないよね。

あのおじさん、またきっとその辺で会うだろうけど、いつもいつもランチタイムを占領されるのも困るしなあ〜〜・・・??