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久しぶりのDonmar Warehouse。最近のドンマーのプロダクションはウェストエンドの劇場で客席規模を広げて上演される芝居が多かったから、実際のウェアハウスでミュージカルを観たのは本当に久しぶりだ

スティーヴン・ソンドハイム氏のミュージカル、「Passion」。初演はブロードウェイで1994年に上演され、トニー賞を取っている。ロンドンでは一度1997年にMichael Ball 主演で上演されているけれど、私は観てなかった。日本では上演されていないようだけれど、こういう小作品でもソンドハイム氏の音楽はキラッと光るものがある。彼の曲が役者/ミュージシャン泣かせなのはいわずもがな、、、でもこのミュージカルでの曲はそれほど複雑なメロディーじゃなかったかな。

怖い話。折しも観たのはハロウィーンの夜。お化けものではないけれど、執拗なまでの愛が思わずゾゾっとさせられてしまうストーリーだ。オリジナルはイタリア映画の「パッション・ダモーレ=Passione D'amore

若くハンサムなイタリア将校のジョルジオは、美しいクララとの激しい恋に身も心も燃やしていた。ところがある日彼はいたって辺鄙な国境街の部隊へ転属になってしまう。恋しいクララには毎日手紙を書くと約束し、クララもまたジョルジオに手紙を書き続ける。ジョルジオは上官の館に滞在し、そこで他の将校達や街の医師との交流が始まる。そしてその館に上官の従妹だという女性=フォスカが同居している事を知る。まだ見ぬ彼女は「醜く、病気がちでヒステリック、誰も彼女を愛する男はいないだろう」と言われ、時折彼女があげる嬌声が館中に響いていた。

都会と違って何も無い田舎。夜はディナーを囲み、カードをする、、ジョルジオにとっては退屈で面白く無い日々だ。そしてある日、病気でひきこもっていたフォスカがディナーのテーブルに現れる。初めて彼女に接したジョルジオは、思ったよりも彼女が親し気に話をしてくるので少し驚く。お互いに本が好きだという事で、彼女はにこやかに彼に話しかけるのだった。

ここからのフォスカはどんどんジョルジオにつきまとっていく。「友達でいよう」と言っても、「自分には心を捧げた恋人がいる」と言っても「もう付いて来ないでくれ」と言っても「君には何の感情もない」と面と向かって叫んでも、彼女はジョルジオを愛する事をやめない。まさにストーカーだ。背後霊のように「あなたを愛しているの」とつきまとう。とうとうジョルジオは夜にうなされ、病気になるまでに追いつめられていく。

あな恐ろしや、醜女の怨念・・・!と思いきや、本題はちょっと違う。実は美しく愛しいクララは人妻で、母親なのだ。ジョルジオとの関係は決して実を結ばない。輝かしい恋に身を焦がしていたジョルジオも、次第に「制限つきのクララとの愛」と「何も求めずにひたすら自分に愛をぶつけてくるフォスカの思い」の間で揺れ始める。フォスカに結婚していた過去があり、それがどんなに残酷に彼女を壊してしまったかを上官から聞かされて、ジョルジオはますますフォスカの情念から逃れられなくなっていくのだ。

最後にとうとうフォスカは愛を勝ち得る。それは「愛している」という以外になんの打算も条件も制限もつけない、ひたすら相手に自分の思いを届け続けた情熱の賜物だ。

エレナ・ロジャー(Elena Roger)のフォスカは怖い、、、彼女は150cmそこそこの小柄な役者だ。枯れ枝のように細い身体を縮めて、土色のメイクに大きな目だけが浮き上がった姿はまさにゾンビのよう・・・それでいて弱々しく話し、笑う。「ピアフ」の時は、小さな身体からもの凄い声がほとばしり出て凄かったけれど、今回の役では声を細く綺麗に使った歌声を聴かせてくれる。独特のなまりがある英語も(彼女はアルゼンチンの人)、むしろそれがフォスカの病的なキャラクターに生きているし、台詞はとても聞き取り易い。醜いはずのフォスカが愛を見せる時にはとても誇らし気で綺麗に見える。

フォスカと対称的なのが、クララの美しさだ。冒頭のジョルジオと愛し合うベッドでのシーンから、まず彼女の美しさに目が離せない。コルセット姿の背中から腰の綺麗なライン、ブロンドの巻き毛、これは男なら絶対に落ちる。女だってそれを認めざるを得ない。ハンサムなジョルジオは、私としては髭は綺麗に剃ってた方がよかったかも、、、でもイタリア的感覚の「良い男」はああなのかしら、、?

良いミュージカルは大仕掛けである必要は無いのだ。巨大なセットや仕掛けや40人のダンサー達がいなくても、良いミュージカルは作れる。前回観た「サロメ」では、ちょっとヤリ過ぎだと思ったジェイミー・ロイドの演出も、今回は洗練されてて良い。アンサンブルの将校達の動きが無駄が無く、場面転換も含めた巧い振り付けになっている。

フォスカの従妹役の役者は、先月初めに、決闘シーンでの小道具のアクシデントで目を怪我したという記事を見ていたのでどうしたかと思ったけれど、どうやら公演は数日キャンセルした後にまた再開している。ドンマーのプロダクションではアンダースタディーを立てていないという事で、今でも彼は右目を覆っていた。海賊のような黒いパッチで右目を覆っているので、それがキャラクターなのだと思わせる。この役も、芝居の中で只一人フォスカをかばい続ける兄のような役回りで良かった

歌唱力は皆さん揃っていてソンドハイム氏の曲を見事にこなしている。浪々と声を張り上げて歌うという曲は特になく、全体に歌が台詞と巧く融合している。片思いをした事は何度もあるけれど、「こんなにも一途な片思い」はできなかった・・・嫌われても諦めない、愛する事をやめないフォスカは、「愛し方を知らないのよ」と言いながら思いをぶつけていく。Passion というよりObsessionだ。でもそれが最後に愛を手に入れる・・・考えてしまった

休憩無しの1時間45分、客席キャパシティー250程の、ミュージカルとしては小振りだけれど、最近観た大仕掛けのミュージカルにも負けない良さが確かにある。良いミュージカルを観た・・・!楽しいハロウィーンナイト