アンドリュー・ロイド-ウェバー氏の新作ミュージカル、「Love Never Dies」20年以上のロングランが今も続く大ヒット作「The Phantom of The Opera=オペラ座の怪人」の続編だ。初日後のレビューと私の観る前の期待度はこちらを←まずお読みください。

完全ネタバレのストーリーです。知りたく無い方はスルーしてください






設定はオリジナルのパリ・オペラ座から約10年後。オペラ座の怪人と呼ばれたファントムはニューヨークのはずれ、コニーアイランドの大型ファンフェア・パークのオーナーになっている。彼は表には出ずに謎のオーナーとして指示やショウの作曲を行い、実際にショウを取り仕切っているのは、かつてオペラ座でステージマネージャーをしていたマダム・ジリーだ。彼女の娘でかつてのクリスティーンの親友メグがスター女優として活躍していた。ビジネスは成功していたが、どうしてもクリスティーンの歌声を忘れる事のできないファントムは、プレジャーパークの目玉としてフランスからクリスティーンを呼び寄せて歌わせる企画を立てる。クリスティーンは夫のラウルと息子のグスタフと一緒にニューヨークへやって来る。ショウの打ち合わせにやってきたクリスティーンとラウルはそこでジリー親子と再会して喜ぶが、ラウルはショウの主催者がファントムである事を知って愕然とし、またスターとして頑張って来たメグはファントムがクリスティーンをわざわざ呼び寄せて歌わせる事にショックを受ける

ここからは、綱引きだ。クリスティーンを巡って夫のラウルとファントムが真っ正面から奪い合いになる。彼女がショウで歌うか歌わないかが男2人の賭けだ。かつてオペラ座で彼女の愛を争った2人。見た目の醜さだけでなく、歪められてしまった心で間違った愛し方しかできなかった、かつてのあわれなファントムはここにはいない。なんといってもビックリ仰天の新事実=クリスティーンとファントムはラウルとの結婚前に一度愛し合っていた! ファントムは今や借金まみれで酒浸りのラウルに、まさに敗者復活の挑戦状をたたきつけるのだ。究極の切り札=「お前の息子は実は俺の息子かもしれないぞ」をつきつけて・・・

身を裂かれそうな思いで、クリスティーンは「Love Never Dies」を歌う。初めは震えながら、戸惑いながら、そして最期には心の限りを込めて・・・

最期にはファントムはまるでヒーローだ。今までの自分を否定されたような切望感からピストルを持って叫びまくるメグをなだめるあたりは、今度は彼が2人の女から綱引きされている。そしてクリスティーンはファントムの腕の中で息を引き取り・・・・

そう、舞台も役者も音楽も素晴らしかった。でもね、、、

私はこんなストーリーは嫌だ!

なに、、密かに一夜を共にしていた? あの時確かに愛していた、、??
ちょっと待ってよ!

Love Never Diesっていうタイトルが、なんの愛の事なのかって実は期待していたのに・・・クリスティーンにとっての夫=ラウルへの愛なのか、歌うという事への愛なのか、、、彼女がどうしてもファントムを切り捨てられなかったのは、彼女の歌/音楽の導き手だったからだ。だから彼女が選ぶとしたら夫への愛歌う事への愛だと思ってたのに。それがここへきていきなり息子のグスタフが実はファントムの・・っていわれてもねえ〜〜?

曲は久々に大型ミュージカルらしい作品で、壮大でドラマティックな曲の数々は耳に残る。でも何故だろう?確かに良い曲なんだけれど、今ひとつ何かが足りないような・・・少し甘いっていうのかな、胸をさすような痛みが足りない・・?これってやっぱりサー・アンドリューの曲が丸くなってしまったって事なのだろうか?年齢と共に音楽もソフトになってしまうのか・・??!

主演キャストの歌唱力はこれ以上には望めないくらい素晴らしい。歌う中にも哀しみや迷いや、演技/台詞としての表現力があって、彼等の歌唱力で説得してしまう。ちなみファントム役のRamin Karimlooは3年前には「オペラ座の怪人」のほうでもファントムを演じている。アンドリュー氏のミュージカルも最近のいくつかはほとんど記憶にも残らないカンジだったので、ここへ来て「まだ才能は枯れていなかったか!」とこれまた復活の大御所

レーザー光線、プロジェクター、アニメーション、トリック、3Dビジュアル等を駆使した舞台美術も素晴らしい。アクロバットやダンスを受け持つアンサンブルも目を見張る。クールなマジックショウを観ているような仕掛けの数々は、2010年の今だから可能なテクノロジーによるもので、これもまた80年代半ばのオリジナルファントムとは一味違う。ちょっと雰囲気だけでも、、


ストーリー的にはべつに「オペラ座の怪人」の続きである必要はなかったと思う。実際、そのまま続いていると思ってしまうとあまりにも噛み合ない。だけど、曲調やちょっとゴシックな雰囲気や、手品仕掛け満載の舞台を考えると現代風な話で創るにはちょっと古めかしいのかな。でもストーリー的には

その昔、姿も心も醜い男が美しい歌姫に執拗に愛を寄せていました。彼女には愛する貴族の青年がいたのですが、男のあまりに執拗な愛にあわれみと同情を覚えるうち、彼女は自分の心が男に捕われているのを否めず、一度だけ結婚前に愛の一夜を持ってしまいました。それきり忘れようと彼女は貴族の青年と結婚し、男の子が生まれました。それから10年、夫は借金だらけで半分アル中になっていて、いまいち幸せとは言えません。そこへアメリカからショウでアリアを歌ってくれとのオファーがあり、行ってみるとその主催者はかつての男。夫はショウは取りやめにして今すぐパリに帰ろうと言い、男は今こそすべてを投げ打って自分の為に歌えと言います。身を裂かれそうな思いの中で、それでも彼女は歌わずにはいられません。最期には思いの丈を込めて男への愛を歌い上げ、遂にはそんな愛の罰を受ける事になります
これだけなのよね。これがファントムの続編である必要性を感じないという事なのだ

でもそんな疑問が、ステージ構成やドラマティックな曲や役者達の歌唱力で押さえ込まれてしまう舞台だった。これはこれで力のある舞台だから悪くはないんだけど、やっぱり私はこんな筋書きは嫌だったな。
最期は素直に拍手できなかったよ。役者がカーテンコールで出て来るまで・・・