これをほめてもらうのは大変だ・・・!

ウェストエンドでの上演は初めてという三島由紀夫の「サド公爵夫人」。私はこの戯曲は読んだ事も観る機会もなかった。女優6人だけの台詞劇だ。各々が数ページにわたる長台詞で語るシーンが随所にあり、日常的な台詞の掛け合いは最小限という、役者にとってはすごく困るスタイルだ

三島氏は古典劇作家のラシーヌが好きだったそうなので、ラシーヌの作品のような台詞で語る芝居を創りたかったのかもしれない。大がかりな舞台転換も、音響/音楽もない。役者達が入れ変わり立ち代わり舞台に出て来るわけでもないし、喜怒哀楽な感情をぶつけ合うようなドラマチックな展開でもない。全編通して本を読んでいるようなものだ

確かに幕が開いた時のレビューがイマイチで気になっていた。実力派ベテランのジュディ・デンチが、ここ数十年間に受けた最小評価だという人もいたくらいだ
確かにとてもリスキーだ。膨大な台詞を語る事で、観客の頭の中にしっかりと映像が出来上がっていかないと、ついてこられなくなってしまう。女優達の、観客を引きつけておく集中力が途切れたらそれで終わりだ。観ているほうはすぐに退屈してしまう。そんな「面白い」と「退屈だ」の綱引きをしているような舞台は、役者達だけでなくその日の観客によっても大きな差が出るだろうし・・・

耳を傾けてナレーションのように語られる台詞の世界に観客がついてきてくれる日は、小さな劇場全体に妖しい空気がみなぎって、女達の語る禁断の世界を垣間みる事が出来る。でもテンポの良いエンターテイメントを求める客達が多いと、きっと皆次々に飽きてしまってあちこちでいびきが聞こえて来る事になってしまうかも・・・ このWyndham’s Theatreはそういう空間をもった劇場だ。小振りで劇場全体がコミュニティーのように感じられるサイズ。

幸いにして、私達が観た日の場内は本当に良い空気だった。随所で笑いを生み、満席の場内は女優達の語るサド公爵をイメージし、禁断の世界の匂いを嗅ぐ・・・この日の舞台は成功だった!そう、とっても面白かった。実力派揃いの女優達が語る芝居の上手い事、、!!これはねえ〜、本当に聴かせる/語る技術がしっかりないと演じられない。聞いているうちにサド公爵本人がいつ出て来るか、、と思ったら最期まで出て来ない。

こういう読み聞かせみたいな舞台は最近殆ど無いからね、、、批評家達も簡単に観ちゃったんじゃないのかなあ。休憩無しの1時間45分はまさにギリギリの所。「2時間近くが拷問だった」なんて書いた批評家もいたけど、そんな風には全く思わなかったよ、あっという間だった。なんといってもうちの彼が「面白かった」って言ったからびっくり。こういう台詞劇はきっと芝居を見慣れていない彼には退屈で、大丈夫かな、、と途中で心配になったのは私のほうだ。彼は面白く無ければ途中で出ちゃう人だからね〜・・・ でも身を乗り出すように聞き入って観てたのには驚いた。日本に行ったら戯曲で(日本語で)読んでみようかな。

さーて、2時間後には空港へのキャブが迎えに来る、、、次の更新は日本でになりま〜す!