前回映画の話をしたところで思ったんだけど、よくDirector's cutとか完全版といった名目で編集の違うバージョンが公開される映画がよくある。 前に書いたけど、映画と舞台が決定的に違うのは、映画は完成品として保存されるということだ。ところが映画がDVDで発売されるようになって、やたらと特典という形で違うヴァージョンが入っていたりする事が多くなった。

映画は製作に関わる人や機関が多いからね、興行を見越して上映時間をけずったり、スポンサーの意向があったり、監督一人の意見じゃ通らない事も多いんだろうね。そういえば、ウォン・カーウァイ監督の「2046」は、出来上がったばかりでプレミア公開したカンヌ映画祭のバージョンと、その後編集し直して正式に劇場公開されたものでは全く違っていたというのは有名な話。

この別ヴァージョンが成功しているものもあれば、余計な事を・・・という作品もある。私の記憶で最初にDirector's Cutというのが物議をかもしたのはリドリー・スコット監督の「ブレードランナー」だった。 公開時には興行は振るわなかったものの、通の間でカルト的な人気が出たこの映画のファンは多いはず。SF/未来ものには本来あまり興味がない私もこの映画は好きだ!これのルトガー・ハウアーは観たら忘れられない

Blade runnerには後にDirector's cut, さらにFinal cutとあり、観た人に賛否の議論をかもし出した。ただ未公開シーンを足して長くなったというだけでなく、人間VSレプリカント(アンドロイド)というこの映画の根本を揺るがす解釈が出てしまったからだ。 後に監督のリドリーと主演のハリソン・フォードが各々のインタビューで異なる主張をしてますます議論を醸し出した。私的には、やっぱりデッカードは人間じゃないと・・・?と思うんだけど、、、

前回ちょっと触れた「Betty Blue」のDirector's cutはオリジナルよりも1時間も長い。オリジナルがウワア〜〜!と突っ走って、Bettyの激情が破滅していくのをゾルグがそばで見届けているという感じだったのが、監督のヴァージョンではさらに1時間かけて二人のストーリーが解り易くなっている。特にオリジナルではベティーに押され気味のゾルグが、長い話の中で男の側の激しさとストーリーを見せている。  初めに受けた激情の嵐のような胸の痛みがたまらない・・・という人はオリジナルでも充分好きだと思うし、オリジナルで「なんかちょっとよく解らないし、エッチばっかりでついていけない」と思った人にはDirector's cutで「なるほど、そういう話か」ってなるんじゃないかな。

私も、オリジナルで何でベティーがあんなに子供の事に執着するのか??と思ったけど、長いバージョンでは解り易くなっていた。ちなみに私のゲイの男性の友人は、この映画を観て「ヒステリーな女はホントに面倒だよね」と言ってたっけ・・・!「あんたには、男と女の激情はわかんなくていいよ」と思ったのでした、、、

バトル・ロワイアル2」は初めからリベンジ版で公開すればよかったのにね。あれだけの人数が出てちゃスポットがどこにも当たらない・・・深作監督が亡くなってしまって、健太監督には本当に気の毒だったけど、監督の迷いがもろに出てしまってる。 カットを撮り過ぎてしまって決められない・・・というのが映画にでてしまっていた。 だったら最初から長いのを覚悟で解り易くしたほうがよかったと思う。切り捨ててすっきり仕上げられないなら、長くして説明するしかない、という見本のような映画だ。

「バトル・ロワイアル2」がもうひとつ損をしてしまった理由は、この映画はこちらでは18指定になっている。実際の客層も20代後半から30代の男性が9割方を占めていた。これは日本とは決定的に違う。そしてその客層に見せるには、出来上がった映画があまりにも子供っぽ過ぎたと思う。子供達の戦いを通して大人達に訴えるものがあった1作目との大きな違いだ。

最近イギリスで話題になったのが「Caligula=カリギュラ」の完全版だ。80年代初めに公開されたこの映画、実は主役に「時計じかけのオレンジ」のマルコム・マクドウェル、その妻に若きヘレン・ミラン(去年、映画「エリザベス」でオスカーを受賞)父帝にピーター・オトウール、その忠実な友にサー・ジョン・ギールグッドという強力な出演者達だ。ところが歴史大作映画にするには資金調達に苦しみ、とうとうPenthouseが出資する形になった。出来上がったのは、中途半端な歴史ものにハードコアポルノがくっついたなんともいえない代物。

この映画はポルノ雑誌「ペントハウス」のボブ・グッチョーネがプロデューサーになった事から、監督、製作同士で食い違い、出演した役者達は自分達の出番でない所で超ハードコアなポルノシーンが撮影されていた事も知らなかったという。 過去28年の間にいくつものカットがあちこちであり、短い物は85分、長いものが158分というバラエティー。この完全ノーカット版というのがとうとうイギリスでこの夏にDVD発売された。Imperial EditionというこのセットはDVD3枚で3ヴァージョンの映画本編と、カットされた未公開シーン等を集めたフィーチャーが入っている。

これはねえ〜・・・裏切りだよね。 主演のマルコムはこのカリギュラ役を一生懸命人として演じているのが解る。残虐な殺戮や欲望渦巻く宮廷内のエロティシズムとしての描写は許せるけれど、まさに内緒で撮って付けた意味のないハードコアシーンになんの意味があるんだろう・・・俳優達への裏切りだ 実際ドラマとしてちゃんと観ると、結構悪くない。カリギュラが少しずつ欲と殺戮に目覚めて行く過程、妻をもらいながらもずっと愛し続け、信頼し続けた妹との純粋な恋愛、妹役も妻もちゃんと役を演じている。グッチョーネ氏がもう少しこの映画を愛してくれていたならもっと良いものに仕上がったんじゃないのかな。

マルコム・マクドウェルの代表作「時計仕掛けのオレンジ」は初上映直後に監督のキューブリック自身によって本国イギリスでの上映が禁じられ、監督が亡くなった1999年までイギリス国内で上映される事はなかった。さらにこの「カリギュラ」もポルノシーンのせいで長く完全版が出なかった。俳優にとっては不運としか言いようがないが、マルコム自身は「このカリギュラ役は誇りを持って演じた」と語っている。監督が「これはポルノじゃない」というなら、いいでしょう、芸術作品ってことでちゃんと観てみましょうよ・・・・・


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