ドラマの「パンドラ」を観て、もうずうっと前から好きなのに普段はあまり思い出さない三上博史さんが気になっていた。 実は私は彼が90年代初めのトレンディードラマなるもので人気者になったのだという事をつい最近まで知らなかった。私が日本の事をほとんど知らなかった10年近くの間に主演俳優になっていた。それにしても、トレンディードラマ三上博史ほど私の中で繋がらない組み合わせは無い・・・三上さんは私の中では役者であると同時にアーティストとして位置づけしてある人だからだ。

初めて三上さんをちゃんと観たのは彼の初ドラマ「無邪気な関係」。この時には、この人が数年前に寺山修司さんに見出されて映画デビューをした人だとは聞いていた。無邪気・・での三上博史さんはシャープだった。研ぎ澄まされた刃のようなシャープさ。鋭い光を放つ目が生きていて、滑舌の良さと台詞のメリハリが演技に力を加える。それでいて冷酷ではなくむしろ熱かった。体温、、というよりもっと、血の温度を感じるような熱さがあった。 このDV男=洋介役が、戸川純ちゃん演じる彼女=ゆりちゃんの、男の残酷性を誘発するような被虐的な純愛キャラとうまく合っていて、私の中ではこの二人のシーンがドラマの中心になっていた。うーん、もう一度観たいね・・・三上博史の名前はすぐに私の中にインプットされた。

その後、「戦場のメリークリスマス」や「Mishima」、寺山さんの最期の映画「さらば箱舟」等ちょこちょこと出ていたのは観たけれど、「この世の果て」でまた三上さんをちゃんと観るまでに10年近くもかかってしまった。その間にこっちで「草迷宮」のDVDを観て、私の中で三上博史さんは、私がアーティストと呼ぶ類いの人たちに属する事になる。 三上さんの中には、台本を読んで演じる役者としての部分と、彼独自の創造世界=三上ワールドが混沌としているアーティストの部分があるのだと思う。私が三上さんを好きなのは、その彼独自の世界を垣間見られる演技が出た時だ。

その事は「草迷宮」を観てすぐにピンときた。(ちなみにこの映画はPrivate Collectionという3部作映画のなかの1編で、3編の中でもとりわけ光っている。寺山さんの世界の前には他の2編が安物エロチカの駄作に見える)この時彼はまだ15歳でデビュー作。この中での三上少年はもちろん演技なんてできていないのだけど、そのかわり「この子は寺山さんの嗅覚が見つけた独自の世界を持っている」という事がなんとなく解る。 演技以前に、賛否両論が極端な寺山ワールドを自分の世界でちゃんと感じているように思えてならない。だから他の寺山常連の役者達との違和感が無い。青年明役の若松武さんへの移行がとてもスムーズで、顔が似ているというわけでもないけれど、この二人の明にギャップがなくて自然なのだ。

普通なら15歳の男の子には酷だなあ〜・・・と思うシーンでも、身体中で受け入れて寺山ワールドの中に存在している。 こちらのDVDではノーカットなので、全裸の狂女に素っ裸にされてのしかかられるシーンなんて、体の反応が映っちゃってるし・・・ここまで撮っちゃっていいのかあ〜とも思うけど。(これはさずがに日本版ではカット&ボカシだよね当然!)松の木に縛り付けられて母親に身体中に筆で手鞠詩を書かれるシーンでも、顔を這う筆の感触をちゃんと感じている表情だ。べた付いたいやらしさは全くない、初々しい色気。これを見つけた寺山修司さんはやっぱり天才だ。

この時にまだ少年の三上博史の中に確かにあったはずの彼自身の世界は、その後長く演技として表現される機会が無かったんじゃないだろうか。 メジャーな仕事に出始めたのは寺山さんが亡くなってからの事だから、寺山さん亡き後、三上博史をちゃんと使える人がいなかったのかもしれない。ちなみに草迷宮無邪気な関係の間に彼の役者としての演技力はびっくりするほど高くなっている。 的確な台詞のイントネーションと滑舌の良さは彼の俳優としての武器だ。声も高めでクリアなので聞き易い。野島伸司さんのドラマでは三上さんがナレーションのような形で語る、というパターンが結構多いけれどまさに正解。

でもそれ以外の、きっと三上博史の体の奥で出口を探していたはずの三上ワールドが初めて炸裂したのが「あなただけ見えない」だったんじゃないだろうか。 いったいどなたの企画だったのか・・・度肝を抜いた怪演技といわれているけれど、あれははじめの一歩だったはずだ。演技力と彼の世界とがもっと磨かれて融合された役がその後いくつか出てくる。この世の果て共犯者、そして絶賛された舞台の「青ひげ公の城」や「ヘドウィグ&アングリー インチ ヘドウィグは私は映画の大ファンなので、日本で三上さんがやると聞いて本当に本当に観たかった。でも日本に行く予定がどうしてもつかなくてあきらめた・・・ライブ版CDは持っているけど。

寺山修司さんがあんなに早く亡くならなければ、三上博史さんはどんな役者になっていたのだろう・・・?トレンディードラマなんぞで人気が出てくる事はなかったかもしれない。 寺山さんが「お前は舞台にはむかない」という呪文を解かないうちに逝ってしまうという事がなければ、もっと舞台でも活躍していたかもしれない。 蜷川さんが口説き続けてやっとこぎつけたという「あわれ彼女は娼婦」のジョバンニ役も、44の時でしょ・・・?はじめに聞いたときは、「おいおい、年取り過ぎてるよ・・・」と思ったものだけど。

三上さんのアーティストとしての演技がもっともっと観てみたい。他の誰にもできない芝居。 もちろん「ストレートニュース」みたいにきっちりと役の人物を演じている俳優・三上博史も良いんだけど・・・・恋愛物なんてやらなくっていいよ、三上ワールドの魂が見えるような役、だれか書いてよ・・・
寺山修司を超える人はいないのかあ〜〜?!

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