エクウスが上演された70年代半ばから後半というのは、「人間の価値、尊厳とはなにか?」を問いかける社会的な芝居が相次いだ時期だ。ニューヨークで、ロンドンで上演されたそれらの芝居が70年代終わりから80年代に入って次々と映画化され、舞台を観ない層の人達にもその問いかけは広がった。

エクウスの他に、カッコーの巣を超えてロボトミー)、この命誰のもの尊厳死)、エレファントマン奇形児)、小さき神の創りし子ら聾唖)、ベント同性愛

数年の間にいつくもの上演・再演が相次いだというのは、そういう時代だったのかもしれない。 そして、その直後と言って良い80年代半ばには、AIDSが世界的に騒がれる事になる 始めの頃は多少のパニック状態があったけれど、AIDSに関しては、比格的早い時期から偏見や差別よりも、正しい理解と注意を呼びかける動きが広まったのは、「命の価値」を見つめ直す事に気付いた人達が多かったからかもしれない。

さて、久しぶりに観たEquusだった。
17 才の少年、アラン。17才というのは本当に微妙だ。少年と呼ばれるけれど、身体はもう大人になって自分の考えや信仰も持っている。でもまだ自信はなくて、 不安のぶつけ場所を探してる。エクウスは、馬を愛し、というよりも魅了され、心奪われ、崇め、神のように崇拝し、神と一つになる事を切望している少年の話 だ。 そしてそのピュアな情熱と信仰は、厩舎で6頭の馬の目をアイスピックで突き刺して潰す、という猟奇的犯罪を引き起こす。

舞台はアランと彼を担当する精神科医とのやりとりで話が進む。
アランの馬との最初の出会い、厳格でストイックな父親と元教師の母親も絡めて、アランがどんな背景で馬を崇拝するようになり、次第に狂信的エクスタシーと性的なエクスタシーを切り離せなくなってしまうようになるか、その過程をパワフルに描く。 
最後には少年のピュアな情熱に精神科医自身が自分の役目、精神を病んだ人間を普通に戻すという事に疑問を抱き始める。普通とは何か、、、少年の純粋な心と情熱を奪って、他の人と同じにする事が、普通で正しいことなのか。

アランを演じたDaniel Radcliff君はとても自然で良かった!目が大きくて奇麗なので、舞台でも目力が出ている。 それが変に強い力じゃなくて、キラキラとしてるのだ。 後ろ向きに横たわった時の肩と背中の線の細さは、まぎれもなく17才の身体だけれど、腹筋6つ、いや、、8つあったかな、、奇麗に絞ってある。 言われている通り後半では全裸で演じてるのだけれど、相手のジル役の女の子ともども、べたついた感じが全くなくて普通に観ていられる。

ちなみにこちらの舞台では、極力隠すといった感じの工作はせず、脱いだら当然見えますが、普通に裸で動きまわってる。 追いつめられて馬の目を突き刺すクライマックスのシーンは、本当にパワフルで美しかった! あのシーンを全裸で演じるというのは、17才の俳優にとってものすごく勇気が要っただろう。藤原竜也君が「身毒丸」で脱いだのとはちょっと違う。演じる役を本当に感じていたら、実際に身体が反応)してしまうかもしれないシーンだ。 実際そういう事もあるのかもしれないね。本当に裸の自分を曝す覚悟でないとできないよ・・・・ダニエル君、カーテンコールではニコニコしていたけど、ちょっと魂が抜けたような疲れきった顔をしていた・・・

相手役の精神科医を演じたリチャード・グリフィス氏とダニエルの相性も良い。始めはあまりにも大きなお腹で張りボテを着てるのかと思った。(本当にあんなに太ってるのか、、と今でも疑問) 見た目がちょっとダイサード役のイメージと違ったので、(歳を取り過ぎてると思ったし)はじめは違和感があった。、体型のせいか衣装が合ってないようにも思って、一幕の前半はそのチグハグ感があったけれど、「役者は演技で納得させる」という事を再認識しました。2幕では、ダニエル・ラッドクリフのアランには、このダイサードがぴったりだと納得

脚本には、笑える所が沢山ある事も今回よく解った。以前に日本で観た時は(市村正親さん)いやに重い芝居だったように思うのはやはり翻訳のせいか、それともグリフィス氏が演じるダイサード医師のユーモアのセンスか・・・随所で笑いが炸裂していた。

面白いと思ったのは、観客層だ。ちょっといつもの劇場の客層と違う・・・・
まず若い。20代前半そこそこ(10代後半?)といった女の子やカップルが多い。親子で来ている人たちも大勢いた。ハリー・ポッターファン、、という事か。 でも彼等が舞台で観たのは、ハリー・ポッターではなく、俳優ダニエル演じる繊細で情熱的な思春期の少年だという事を皆納得したはずだ。ラストの15分はみんな身動きする気配すらなく圧倒されて観ていた。 親子連れのお父さんは、初演のエクウスを観ているかもしれない年代だ。

あと、やたらと目についたのが、カッコ良くてスマートでキャンプな人たち(=ゲイやダンサーに圧倒的に多いタイプ。これは舞台を観て解った。6頭の馬を演じるのは皆ダンサーで、身体の動きのしなやかさ、馬として立っている線の美しさは本当にセクシーで奇麗だ。どうやらそちらのお目当てさん達も多いという事なのだろう。(あるいはお友達)ナゲットという馬を演じたWill Kempはマシュー・ボーンの「白鳥の湖」でオリジナルの白鳥を踊った人でファンは多い。

良い舞台だった。 ラッドクリフ君、今回はちょっと屈折した少年だったけれど、それをとてもピュアに演じていたのでキャラクターに暗さはあまりない。ちょっと軽い感じの芝居もいいんじゃないかな〜、二ール・サイモンの「ブライトンビーチ回顧録」みたいな・・・・・

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