見つけもの @ そこかしこ

ちょっと見つけて嬉しい事、そこら辺にあって感動したもの、大好きなもの、沢山あるよね。

September 2019


3ヶ月ぶりの芝居!! 日本行きで散財したのと、夏の間はあまりピンとくるものが無かったのでちょっと我慢していたけれど、秋にはいくつか観たいものがあって、まずは楽しみにしていたFlorian Zeller氏の新作、「The Son」。
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これはゼレール氏の「The Mother」「The Father」に次ぐ3作目という事になっているけれど、別にストーリーや人物設定に関係があるわけではない。あくまでもタイトルだけの話。前回に観た「The Height Of The Storm」では突然妻を無くした半分認知症の父と事後処理(家の売却と父の施設入り)にやってきた娘たちの話で、心に問いかける作品を打ち出した。それに続いて今回は作者自身がインタビューで「今回は、はっきりと言いたいことがあって書いた」と語っている。

両親が離婚した時期から少しずつ精神的に不安定になってしまった息子=ニコラス。閉じこもり、一人でぐるぐると歩き回ったり落書きしたり、そうかと思うといきなりキレたりという完全に鬱状態の彼を親として案じる両親。離婚の原因は夫のピエールに愛人ができたからで、結局妻と息子の元を去ってその愛人=ソフィアと再婚してしまったのだ。学校で問題を起こしたニコラスの事を相談しにピエールの元を訪ねた母親のアンは、親としての責任と一人では抱えきれない状況を訴える。
ソフィアも含めて話し合った結果、ニコラスはピエールとソフィアの所で暮らす事になり、学校も転校して新しい生活を始めてみる。 父親と暮らし、ソフィアとも少しずつ話をするようになっているかに見えても、ニコラスの心の病みは頑なに彼を支配している。一生懸命に両親やソフィアに取り繕うとしたこともあったが、転校以来実は一度も登校せず、毎日学校へ行くふりをしては時間を潰して帰ってきていたのだ。
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母親としてニコラスを守り、立ち直らせたいとは思うものの、自分も生活の為に仕事に出なくてはならず、一人では抱えきれずに苦しむアン、結婚していながらも、一人の男性としてソフィアを愛して新しい人生を選んだ事を正直に話して聞かせるピエール、父親の元愛人・現在の妻という立場に引け目を感じる事なく、素の自分でニコラスに接するソフィア。大人たちにも其々の考えや愛情の示し方があり、みんながそれなりにニコラスの事を何とかしてあげたいと思っているのはわかるのだが、ニコラスの病んだ心は癒えず、とうとう自殺を図ってしまう。
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 命を取り留め、病院で精神鑑定を受けたニコラスについて、精神科の医師ははっきりと「今家に帰すのは大変危険です」と告げる。時間をかけて、しっかりと治療をするのが先決だと。もしどうしても家に連れて帰るなら、「何があっても病院側は一切の責任を追いかねる」という書類にサインをしてもらいます、という医師の強い言葉を聞いて、アンもピエールも流石にまた自殺騒ぎを起こしてはいけないと、ニコラスに治療を受けるように説得しようとする。それに対してニコラスは子供のように必死に「家に帰りたい」と懇願する。「ここはみんながおかしいんだ、こんな所にいたら自分もおかしくなっちゃう、こんなところに僕をおいていかないで」と泣き叫ぶように哀願するニコラスに、心を鬼にして「ここに残って治療を受けるんだ」と突き放そうとするピエールとアンだったが、スタッフに押さえつけられ、まるで犯罪者が引き立てられるかのように病棟に連行されて行くニコラスの悲鳴のような叫びを聞いて、最後の最後でとうとう書類にサインをしてニコラスを家に引き取って帰ってくる。

久しぶりに親子3人で家にいる嬉しさを隠せないニコラスは、子供の頃の3人での思い出を話して少し落ち着いたかに見えたが、、、「お風呂に入ってくるね」と言って消えて行った浴室から、一発の銃声が、、、、、

大人たちに罪があるわけではない。父も母も、個人としての人生があり、責任があり、何よりも息子を愛している。それでも深い傷を負った子供の心は出口を見つけられずに苦しみ続けてしまう、、、、とても苦しい現実がある。助けたい、でもどうすればいいのか、助けたいという思いが気持ちでは届いていても救いにはなれない。

作者が言っていた「はっきりと言いたかった事」ではないかと思うセリフが後半にあった。精神科医が、ニコラスを病院に残すか家に連れて帰るか迷う両親にきっぱりと言った。「愛しているだけではダメなんです。=Love is not enough」。はっきりと心に残るセリフだった。心の病は病気であって、きちんと時間をかけて治療法を模索し、投薬やカウンセリング等、医学として必要な治療を施さなければ治せないのだ、と。劇中で何度も言われるセリフ、「It's going to be all right」でも決して大丈夫ではないのだという現実をひしひしと突きつける。

とても現実的で、日常的で、だからこそ考えている人たちにはっきりと苦しい現実を突きつけるような芝居だ。前作の「The Height of the storm」のような、見た人に考える余韻を与える作品と少し違って、厳しいインパクトがある。芝居の最期はもっと寂しい。息子を救えなかったピエールは少しずつ後悔と罪の意識に苛まれて、慰めるソフィアの腕の中で、彼自身も心を病み始めているのだ、、、、、

まだやっと40になったばかりのゼレール氏の筆の勢いは止まらない。翻訳はいつものクリストファー・ハンプトン氏。このコンビもすっかり定着した。そういえはハンプトン氏自身の書く芝居はなかなか新作が出ないなあ〜〜。翻訳もので忙しいのかな。
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すっかり名コンビになりつつあるお二人のツーショット。いつものように休憩なしの2時間そこそこの芝居。結末がキツイから、ちょっと苦しい感じも残ったけれどど、劇中のセリフの掛け合いは面白い。場面の終わりと次の場面の始まりが少しオーバーラップするような演出もスムーズで、大きな転換でなくても場面の切り替わりが繋がっていた。少ない登場人物の芝居は一人一人の比重がバランス良くて、見ている方も何かしら共感できる部分が必ずある。時代も国も関係なく上演できる芝居だからいろんな国で翻訳されるといいな。





 


裏技のお試しで日本のテレビが観られるというのに登録してみた。スルスルと観られる。リアルタイムの番組はもちろん、2週間前まで遡って観る事ができるので、結構な量だ。地上波だけでなく、BSやCSの一部も入っているので、WOWOWのライヴとか衛星中継とかスポーツチャンネルとかも
探しているときりがない。これはもう1日が50時間あっても足りないかもしれない、、、、!!

日テレBSで、「氷艶2019-月光りの如く」をやっていた。前回の歌舞伎から平安絵巻になった「氷艶」高橋大輔さんが光源氏を演じるというのはずっと前から宣伝されていたので知っていた。しかも演出が宮本亜門さん、出演者達を観ても、これはアイスショーではなく、「氷上舞台劇」になるだろうな、と期待していた。ちなみに私は高校時代に選択授業で源氏物語を原文で読みたかったのだが、人数が少なくてクラスが無くなり、円地文子さんの訳で読んだ。でも宇治十帖がどうしても入っていけなくて、ちゃんと通して読んだのは源氏がいなくなる「雲隠れ」までだけど。

実際にこれは「源氏物語」とは全く別物のストーリーだ。いや、人物設定や名前なんかはそのままなのだけれど、「光源氏」の話ではあるけれど源氏物語ではない。だからタイトルにも入っていないのだろう。
なんというか、舞台演劇とスケートと、ミュージカルとエンターテイメントが全て合わさって確かに見応えは十分な公演になっている。で、ストーリーがちょっと宝塚、、、まあ重くないという点ではこの本もありなのかな。

亜門さんは少し前まで入院していたのを知っていたから、大丈夫なのかしら、、と思ったけれど、本当に昔からとてもエネルギー溢れる人だから、ニュースで観た稽古風景を見て安心した。スケーター、役者、スタッフとこれだけ多方面からの仕事をまとめて演出するのは大変だっただろうけれど、よく出来上がったと驚いた。

どうしても芝居を観る目線で観てしまうので、このプロジェクトがいかに大掛かりなものだったかは想像がつく。出演者達が一丸となってお互いの得意分野を分かち合っているのがよくわかる。役者達はスケートを練習し、スケーター達は役者から芝居の台詞を学び、平原綾香さんの歌を聞いて学び、柚希礼音さんの宝塚式の大舞台での堂々たる振る舞いを目の当たりにし、ノイズのように脇を固める人達が支えている。場面場面での民衆達の「ノイズ」が蜷川さんの舞台を思い出させた。蜷川さんは脇を固める役者達でノイズを造るのが本当に巧かった。今回の亜門さんの演出でもそれを感じた。

プロジェクターを使ったセットに代わる背景創りは見事だ。後ろ正面とリンク全部が大きな舞台になって、色も鮮やかに空間を邪魔せずに場面を創っている。 歌詠みのシーンでステファンと大輔さんのスケートに合わせてリンク上に筆書きの歌が描かれていく発想には唸ってしまった。

それにしても、みなさん本当に頑張ったのが見える。大輔さんは稽古の時にはセリフをいうのも一苦労だったようなのに、やっぱり役に入り込むと表現したいものが出てくるんだろうな。台詞や歌の技術はもちろん役者ではないのだから仕方ないとしても、短期間でここまで持ってきただけでも凄い。朱雀帝のステファンや弘徽殿の荒川さん、紫の上のリプニツカヤ嬢も朧月夜の鈴木明子さんも、セリフはなくても表情や体の動きで十分に観客に伝わる表現力を持っているのは流石だ。織田さんの陰陽師がハマりすぎてて怖い、、、!!平原さんはシンガーだからお芝居は、、?と思っていたら、なかなかしっかりとした芝居をしていて高橋さんを引っ張っている。滑舌と声がいいな〜と思ったら、ナレーションの仕事も結構されているんだ、、、納得。みなさんの持つ別々のケミストリーががっちり合わさった感じだ。前回の歌舞伎バージョンよりずっとずっと良いね。

それにしても源氏物語の設定はなくてもよかったんじゃないのかい、、、?と突っ込みたくなるくらい源氏物語ではな〜〜い!!でも別物と納得して楽しめてしまう作品になっていたのは間違いない。 たったの3日間というのはこれだけのプロダクションを創る事を考えたら短すぎるね。でももうこのメンバーでの再演なんて無理だろうし、DVDにもならないだろうしね、残念だわ。まあ、DVDで見返すかどうかは別問題だけど、「観に行きたかったのに行かれなかった」という人たちにもっと観てもらえるといいね。

「氷上音楽劇」という呼び方、ぴったりだわ。それにしてもストーリーの「あるある」な感じがちょっと??だったけど、難しい事言わずにエンタメとして楽しむにはあれくらいでよかったのかも。 もちろんもっと突っ込んだ意見を言うこともできるけれど、私としてはこれで十分楽しめた。会場で観たらもっと大きな舞台として観られたんだろうな。スケートの持つスピード感はいろんな場面で通常のミュージカルなんかでは出せない躍動感がある。創る側は大変だろうけれど、もっと定着して行くと、引退後のスケーター達にも幅ができるんじゃないだろうか、よくあるアイスショーだけじゃなくて。

さーて、そうは行ってももう9月、スケートはぼちぼち競技シーズンが始まるね。まだ現役の高橋選手、今年はどんな 演技を見せてくれるのか、、、羽生君や昌磨君はもちろん、若手も競争率高いよね、島田高志郎君や山本草太君、友野一希君、、、ベテランの刑事くんも。どうなることやら、、、、女子はもっと凄い戦いになるしね、、、う〜ん、女子の方はわからないな、4回転少女達もこの一年で身体が変わって行くだろうしね。みんな怪我無く良い演技を見せて欲しいな。
 

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