見つけもの @ そこかしこ

ちょっと見つけて嬉しい事、そこら辺にあって感動したもの、大好きなもの、沢山あるよね。

April 2017


久しぶりに観たRozencrantz and Guildenstern are dead。シェイクスピアの「ハムレット」では脇役のこの二人を主人公にしたハムレット•スピンオフとして有名なTom Stoppardの戯曲。
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ハムレットと幼少時代の友人なのだけれどホレイショーのように友情と信頼を寄せられているのではなく、国王にハムレットの監視役を命じられ、狂気を演じてイングランドへ送られることになったハムレットを共に船に乗る。けれどイングランド王が自分を殺すように仕向けた仇の叔父・国王の手紙を見たハムレットは内容を書き換え、代わりにローゼンクランツとギルデンスターンがイングランドで処刑されてしまう

ハムレットではほんの小さな役だが、私も以前思ったのだ、確かにこの二人はちょっとバカで論理的にも感情的にも地に足がついていない感じで、それがちゃっかり国王の手先(という自覚が本人達にはない)になってハムレットの行動を監視・報告する役目担ってしまうのだが、本人達にとってはハムレットの為を思っての事なのだ。悪気は全くないし、むしろ単純バカの典型のようなキャラクターだ。それなのになぜ、ハムレットは自分の代わりに彼らを処刑するようにとイングランド王に手紙を書いたのか、、殺さなくたって良かったじゃないか、、??

ローゼンクランツとギルデンスターンは舞台袖にいる。そう、彼らはなんだか舞台袖で出番を待っているエキストラ俳優ような感じだ。常に二人のたわいのない掛け合いが続く。彼らの周りでは大ドラマが繰り広げられていて、一国の宮廷にまつわる陰謀と復讐が織り成されているというのに、彼らは事の次第をきっちりと理解していなくて、コインを放って裏表を当てたり、話の進展の全くない言葉の掛け合いで会話したりしている。この、何も起こらない中で会話の応酬が続くあたりは、ベケットの「ゴドーを待ちながら」ともちょっと似ている、、、

「ハムレット」でも、ローゼンクランツとギルデンスターンは取り違えられがちだと解らせる場面がある。要するに、どっちがどっちでもあまり重要ではないような二人なのだ。背丈も見栄えもなんとなく似た感じの2人の役者がこの役を演じるのが常なのもその為だ。 こちらの本でも初めからなんども二人の名前がごっちゃになるので、はっきりとギルデンスターンがローゼンクランツを「ローゼンクランツ!」と呼ぶまで確信できない位だった。ちなみにこの二人は背丈が似ているのだが、他の出演者達よりも小さい。この「小さい二人」というのもなんとなくキャラクターを反映しているように見える。

でも確かにキャラクターには違いがある。ギルデンスターンの方がセリフが多く、なんとか筋道を立てようとあれこれ考えて喋っている。そしてローゼンクランツは合いの手を入れながらどんどんそれに乗っていくタイプだ。 相手の意見を覆すような討論じみた会話は一切無い。ハムレットのことも、アレヨアレヨというまに宮廷に呼び出されて、久しぶりに会ったのだが、特に命がけで友を守ろうというような熱い思いもないし、殺人騒ぎが起きても大した危機感も持っていない。ようは流れに乗っているのに周りの状況が把握できていないのだ。

それでもその表舞台の袖でひたすら無意味な会話の応酬を繰り返し、コインを放る姿はなんだか憎めないから不思議だ。

そしてこの芝居でもう一人、脇役から主役級に抜擢されているのが旅芸人たちの座長だ。ハムレットの劇中劇で前国王暗殺の様子を演じることになった旅役者一座。この一座と二人が宮廷に行く前に旅の途中で出会っていて、さらにはイングランド行きの船にも隠れて乗りこんでいうるという設定。座長は芸術と現実について語る。彼は舞台劇の核となるのは弁論技術はもちろんのこと、芝居で血が流れなければいけないと信じている。すべてのものは死につながるのだと。 
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あまりインパクトのあるキャラではない主役二人の代わりにこの座長役が多いに語る。そして二人はまたそれを袖で聞いていて流れに乗る、、ということの繰り返しだ。座長を演じたのはDavid Haig。古典劇からミュージカルまで幅広く活躍するベテランだ。私はThe Madness of  George III でこの人の国王を観た。演じる座長が主張する通り、セリフ術に長けた役者さんで、今回の役も(馬鹿馬鹿しい)説得力十分だった。コミカルで大げさで、愛嬌がある

ローゼンクランツはようやくハリー•ポッターから脱出した感じのダニエル•ラッドクリフ、ギルデンスターンはジョシュア•マグアイアー 。ダニエルは深く考えずに相槌を打つうちにどんどん流れに乗って行ってしまうローゼンクランツの能天気なキャラをユーモアラスに演じている。ギルデンスターンの方が先のことを考えて不安がったりするのだが、独白のようなセリフが上手い。この辺りは座長のいうレトロリックか。(チェックして観たらRADA出身の人だ)

クスクス笑ううちに、終盤ではこの二人の残酷な運命に気づかされる。ハムレットの原作では最後は「ローゼンクランツとギルデンスターンは死にました」という報告のセリフだけで終わってしまう二人の人生だが、最後にギルデンスターンは呟く、、「こうなる前に、どこかで、NOという機会があったんじゃないか、、??」 それでも運命の流れのままイングランドで待ち受ける死を受け入れてしまったらしい二人が哀れに思えてくる。そうだよ、殺さなくたって良かったんじゃないの?

こんな単純でお人よしの二人組を、仇の国王のパシリになったという事で殺すように仕向けたハムレット、、、この芝居を初めて観たのはかなり昔のことだけれど、これを観てからは「ハムレット」の見方が変わったのは確かだった。そしてこの二人とは大違いの信頼と愛情ををハムレットから 寄せられるホレイショーのことも、もっと深く見るようになったっけ。

でも、要するにNoと言うきっかけを逃してしまったのがいけなかったのだ。もっと周りで起こっていることに集中して目を凝らしていれば、異国の地で死ぬことはなかったのにね。原作のハムレットがシリアスなキャラクターだからこそこの二人組に意味があったとも言えるけれど。シェイクスピアがハムレットを書いた時には何を想定してこの役を作ったのか?もちろん当てて書いた役者がいたのだろう。似た者同士でみんなからちゃんと個人として見てもらえない二人の役者がいたのだろうか?でも「ハムレット」ではコメツキバッタほどのインパクトも無いような二人なんだけど、、、

ハムレットを全く知らないで見ると面白さは半減するけれど、これだけでも面白いセリフ劇だ。ボケとツッコミのような二人の延々と続く掛け合いは、テンポの良いリズミカルな演出で観客を引っ張る。 舞台袖を、さらに舞台裏から見ているような芝居。
やっぱり面白い


さて、そして今年もやってきたBGT, ことBritain's Got Talent。ジャッジは去年と変わらず、アシストの二人組、Ant & Decも健在だ。っていうか、この二人無くしてはありえないよね
実は毎年年明けから4月からのBGTまでのつなぎの期間に、このAnt & Decが土曜の夜のスタジオライヴでバラエティーショウをやっていて、実はこの番組の大ファンなのだ。だからBGTが始まるということはこのSaturday night Takeawayという番組が終わってしまうのでちょっと残念。でもまた来年戻ってきてくれるはず。

今回は初回放送からあれこれとバラエティーに富んでいる。その中で、ちょっとジンときたのが、The Missing People Choir というグループ。イギリスでは毎年行方不明になっている若者が沢山いる。まだ10代から二十歳位の若者がある日突然姿を決して、家に戻ってこないまま十数年、、、何てケースが本当に多い。このクワイヤーはそんな行方不明の家族がいる人たちと、それを支えるチャリティーメンバーやサポートする人達が集まって作ったグループだそうだ。彼らの歌ったオリジナル曲、I Miss Youで会場の空気は一変する。何年も、何年も、帰らない我が子を探して、待って、「明日になれば見つかるかもしれない」と思い続けて生きてきた思いが美しい合唱になってメッセージを発する、、、

 

歌のバックに、もう20年以上も前にいなくなった人たちの写真が映し出される。これをきっかけに一人でも誰かが消息を知ることができたら••••
こういうのがイギリスの良いところ、っていうかこういう人達がいるから大抵はバカバカしくて笑っているBGTに価値があるんだ。

もう一人、こちらは15歳の女の子。ミルトン•キーンズから来たごくごく普通の黒人家庭の子。地味な色のセーター(ちょっと裂けてるのはファッションか?)にジーパン姿でステージに立つと、彼女の演目表を見ていたサイモンが「この歌を選んだのはどうして?」と聞いた。
私のヴォーカル力を発揮するのに一番良いと思ったので
世界中でトップクラスの大きな歌だよ
はい、、
そして歌い出したのがこれ、、、


会場は総立ち、そしてサイモンの腕がまっすぐにゴールデンブザーに伸びる。(このゴールデンブザーは各ジャッジが一度ずつ使えるもので、押された人はひとっ飛びにセミファイナル進出が決まる)

15歳だよ、、、もちろんBGTに出てくる若い子達の中にはちゃんとプロのレッスンを受けている子もいる。今までだってびっくりするような歌唱力を披露した子は何人かいたけれど、このSarahは、「教えてできるものではない何か」を持っている、、、こんな大人の歌を自分の歌にしてしまっているのがすごい。この子は楽しみ。このBGTに勝つかどうかじゃなくて、おそらくこの子はこれから誰かが(おそらくはサイモンが)育てて行くことになるだろう。 そんな将来性のある大きな才能の持ち主だ。

最初はいつもとんでもない勘違いみたいな人たちも多く出てくるのだけれど、今回は結構見ごたえのある人たちで編集された第一回だった。(この編集の仕方も毎週違って面白い)
第一回でゴールデンブザーが出たのはびっくりだけど、この後どんな人たちが登場することやら、、、 

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