連日Brexitで大騒ぎな中、一転二転して無事に新しい首相が誕生した。サッチャー氏以来の女性首相の誕生だ。Brexit勝利の時には、真っ先に首相候補として元ロンドン市長で離脱派を率いたジョンソン氏が上がっていたのに、 親友官僚の裏切りにあって出馬を断念。ところが新内閣に「外務大臣」として就任するというドラマさながらの展開だった。本来は新首相が決まるのは10月と見込まれていたのが、首相選に残ったのがメイ女史だけ=そのまま決定、という事で、あっという間にキャメロン首相は10番地から引っ越す羽目に・・・・ニースのテロ、トルコの反逆劇と、メディアはまさに大忙し

政治はさておいて、レビューで絶賛されているコメディーを観て来た。「The Truth
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嘘をつくのと本当の事を言わないのは違う、なんてよく言うけれど、今回観た芝居は、「真実を話そうかどうしようか?」から 始まって、実は知らなかった事がどんどん吐き出されてくる、、というもの。
不倫をしているカップル。実は旦那同士は親友という事で、彼女の方は「いつまでもコソコソ会わなきゃならないのはいやだから、私たちの事を話そうか」と言い出したから、男は大慌て、、、という所から始まる。 

登場人物は2カップルの4人。不倫カップルはアリスとミシェルで、アリスの夫=ポールとミシェルは長年の親友。女医のアリスとビジネスに忙しいミシェルは、いつもミシェルのビジネスミーティングの合間にホテルで抱き合うという関係をもう数年続けているのだが、そんな刹那な関係に疲れ気味のアリスが、「もっと二人の時間を持ちたいわ、旅行にでも行かない?いっその事ポールとローランス(ミシェルの妻」に私たちの事を打ち明けない?」と言い出したものだから、ミシェルは仰天。とりあえず次のミーティングを「具合が悪い」とキャンセルしてアリスと午後いっぱい過ごした後、家に戻ってみるとミーティングに参加しなかった事が妻にバレている、、!思いつく知恵を振り絞って取り繕ったものの、妻は実際には「もっと知っている」様子・・・ 

お互いにパートナーに嘘をついて週末の夜を一緒に過ごそうと出かけて来たものの、家からかかってきた電話で話すうち、嘘がバレないかと肝を冷やす羽目になる。誰がどこまで事実を知っているのか、知っているのに知らない振りをしているのか、自分の撒いた種なのに、状況が変わるにつれて逆ギレするミシェルと、実は虎視眈々と相手に逆襲する機会を待っていたかのようなポール。一言の台詞で立場が一転する、という連続で、ちょっと恐い爆笑コメディーになっている

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脚本はフランスで大人気らしい若手のフローリアン・ゼラー。まだ30代半ばだ。そして翻訳にはクリストファー・ハンプトン。 フランス作家のハンプトン訳で似たようなタイプの芝居と言えば、何年か前に観た「God of Carnage」がある。会話していくうちに状況が変わって怪しんだり逆ギレしたり、という展開も良く似ている。展開によって弱気になったり勝者になったり、実は裏切られていたり、真実=The Truthが出てくる度に立場が逆転していく、という作りはハロルド・ピンターの作品にも近いものがある。

普段は女医としてキビキビと仕事しているアリスが、二人の時には「もっと甘えたい女」になったり、一見やり手のビジネスマンで女や妻には口が巧いミシェルが、嘘がバレているのでは、、と思い出した途端にみっともないくらいに慌てたり怒り出したりするのが見事に面白い。対照的に、ポールは今は失業中でちょっと冴えない感じだけれど、実は長年の金融マンとしてのキャリアと落ち着きがあり、口には出さないけれどじっくり状況を見据えている感じがある。ミシェルの妻のローランスも良妻賢母タイプでありながら、「実は知っていて知らぬ振り」をしているような、本音を隠しているタイプだ。

アリスとミシェル、そしてポールとローランスという陽と陰のような対照的なカップル、、、いや、本来のカップルはアリスとポール、ミシェルとローランスなのだが・・・・

会話はどんどん真実を表し、最期にはどうやらアリスとミシェルの事は双方のパートナーはもうずっと前から知っていて、それどころかポールとローランスも不倫関係にあった、、 毎週のテニスで何年もずっとポールに勝ち続けていたミシェルだけれど、どうやらそれもポールがわざと負け続けていたのかも、、??まさに「真実や如何に、、?」という感じの終わり方だ。

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最期は、どうやらポールがスウェーデンで新しい仕事に就く事になったようで、「これで不倫もおしまいだ、また二人でやり直そう」と妻を抱きしめるミシェルだけれど、ローランスの顔は複雑。「ポールとの関係なんて無かったわ!」と堂々と夫に言い切ったものの、その顔は明らかにポールが遠くへ行ってしまう事のショックと、そして本当にこれからこの夫と幸せにやっていけるのか、という疑問と、夫の言葉を信じていいのかという迷いと、、、、見事に複雑な表情を見せて幕が下りる

休憩無しの2時間弱という芝居が私は好きだ。台詞の展開でついていける丁度良い長さ。才能のある若い作家がどんどん活躍してくれるのは本当に楽しみだ。これから時代を超えて何度でも上演されていくような新しい作品の一つになるといいね。