3連休明けで仕事に行くと、私のデスクになんと新しい椅子がある
もうだいぶシートの生地がほつれかけていて、私はともかく向かいに座っていただくお客さんにちょっと恥ずかしい状態だったので、ボスが私用とお客様用を両方新調してくれたのだ。(ドケチなうちのボスにしてみれば12年ぶりの事だわ、、、)
皮で覆われたシートはいかにもプロフェッショナルなイメージで黒。お偉いさんのデスクのようで、座ってみるとなんと心地よいクッション!どっかりと体がおさまって背もたれもいい感じ、小さめの肘掛けもついていて、上下もスムーズに調節できて楽チンだ。
わーいわーい!とひとしきり喜んで、さて仕事を始めたのだけれど、ものの2−3分で、なんとなく使い勝手が良くない気がしてきた。
私の仕事はしょっちゅう立ったり座ったりする。接客のデスクと横のワークトップを両方使うので、椅子をちょっと動かして行ったり来たりする。ところがこの椅子、座り心地は良いものの、いちいち動かしにくい。
椅子をよく見てみるとクッションは奥に向かって斜めになっているので、自然と体が背もたれに向かって沈むようになっている。足でも組んでドッカリと一日座っているのなら快適なのだろうけれど、立ったり動いたりするには今ひとつなのだ。
横の肘掛けが邪魔になって椅子を上下するレバーに手が届きにくい。私の仕事ではお客様に眼鏡を処方する際、フレームをかけてもらって調整したり、フィッティングの測定に目線を合わせてちゃんとした位置から測らなくてはならないので、椅子の上下は無意識のうちに一日に何十回も繰り返す。
なんだかやり難い・・・ちょっと椅子を高くすると足が床に付く感覚が安定しない、、、
私があれこれと椅子をいじっているのをみたボスが怪訝に思ったのか、「How are you feeling?」と聞いてきた・・・
やっぱりここは仕事し易さが一番なので、「一日ドッカリ座っているには最高だけど、ちょっと動き難い」と言うと、「それは困るね〜、、(笑)」という事で、やっぱり前の椅子に戻す事にした。3脚あった中で一番コンディションの良いものを戻して、新しい椅子は2脚ともお客様用という事になった。
この件で思い出したのが、数年前に日本から戻ってきた時の事。
私が一人で里帰りから戻る時は、たいていはうちの彼が空港に迎えにきてくれるのだが、この時は彼が仕事で来られないというので、キャブ屋を頼んでおいてもらった。(正規の黒いタクシーよりも安い個人経営のミニキャブはロンドン生活で必須だ)てっきりいつも使っているところに頼んだものと思っていたら、この時は気を利かせた彼が奮発してショーファーサービスを頼んでくれたのだ。
空港で出迎えてくれたドライバーはいつものカジュアルな兄ちゃんではなく、いかにもおかかえ運転手といった感じの制服・制帽の上品な紳士。ミニキャブだと兄ちゃんが白いコピー用紙にマジックでMrs XXXと手書きした紙を持って待っているのだが、このときはきちんとボード板に私の名前がフルネームで印刷されたものを掲げていた。「こちらでお待ちください」と駐車場の車寄せで待っているとやってきたのはメルセデスベンツの大型車だ
シートはピカピカの革張り、小型の冷蔵庫も付いていて、紳士が中の飲み物とビスケットやケーキを指して「Please Help yourself」とにっこり。「こりゃ、いくら払ったんじゃい、、、??」と思いながらも、日本からの長旅を終えた私の為に彼がプレゼントしてくれたのが嬉しかった。
ところが、、ところがです!!
大きな車の革張りシートは奥が深い。小柄な私が深く腰掛けてしまうと足先に安定感がないのだ。おまけに走り出すと振動でスカートが皮のシートにスルスル滑ってしまう・・・・体がシートの上で滑るのをこらえていると重心が取れずに車がちょっと曲がる度にコロンと転がってしまいそうになるのだ
なんだなんだこの乗り心地の悪さは!!!
スルスル/グラグラ/ヨロヨロをこらえているのはもうメチャクチャ緊張して、ただでさえ12時間のフライトで眠くて仕方がないのに、いっその事シートに横になってしまおうか、とさえ考えた。そのほうがどれだけ楽か・・・
結局、家につくまで1時間弱の間、私はシートの隅で足がしっかりつくようにちょこんと前に腰掛け、体を安定させるためにドアハンドルにしがみついている羽目になってしまったのだった。
やっぱりね、レザーシートの大型車なんて体の大きな男の人か中年太りのマダムにはちょうど良いんだろうけど、私みたいな153センチ程の小柄な人間には不向きなのよね。バスの後部座席に座った子供が曲がる度にコロンコロン転がりそうになってるようなもんだから・・・
どんなに高くて上質でも、結局身の丈に合っていなければ豚に真珠、猫に小判、、、あれ?ちょっと違うかな??
本当のラグジュアリーというのは、自分の身の丈にあった高級品を特注する事なんだろうなあ〜〜と実感したのだった。