久しぶりに行って来たHampstead Theatre、演目は2ー3年前にニューヨークでトニー賞を取った(ノミネートも数部門)Good People。アメリカ、ボストンの南部、労働階級でアイルランド系カソリックの人達が多い街が舞台になっている。
幕が上がるとディスカウントショップ(100円ショップ)の裏口でマーガレット(Imelda Staunton)が必死にマネージャーのスティーヴにいいわけしている


友人達と話すうちに、学校時代の仲間で、ちょっとだけ(2ヶ月程)つき合った事のあるマイクが今は医者になって羽振りの良い人生を送っているときいたマーガレットは、何か仕事を算段してもらえないものかと彼を訪ねる


労働階級の娯楽の定番といえば「Bingo」。ビンゴセンターで友人と女3人でだべりながらビンゴに興じているとスティーヴがやってくる。彼はビンゴが大好きで、おばさん達からすると、「若い男でビンゴが大好きなのはゲイだ」という定義になってしまうのだった。そこにマイクから連絡があり、パーティーは娘の具合が悪いのでキャンセルになったという。マーガレットは咄嗟にキャンセルは嘘で「やっぱり私を呼びたくないんだ」と解釈し、かまわずに当日パーティーに出掛けて行く事にする。
第1幕では労働階級者のいい分や価値観、生活感をとてもリアルに出していて、台詞も現実味があって面白い掛け合いが続く


2幕は高級住宅地にあるマイクの家にやってきたマーガレットが彼の妻、黒人のケイトにケイタリング会社のスタッフに間違えられるというシチュエーションで始まる


マーガレットというキャラクターの背景には、運に恵まれずに厳しい人生を歩いて来た労働階級の現実がある。この「階級」というのはイギリスではもっとはっきりとしていて、労働階級に生まれた人間が中流/上流階級に交ざって行く、あるいはなっていくというのは余程の運の良さと自分を変える努力が必要だ



ビンゴ会場で「後一つ、、、」とひたすらBの53を待っていた時にはちょっとの差で番号は呼ばれず、最期のビンゴのシーンでは全く関係ないゲームの時にB53が声高に呼ばれる。人生の分かれ道がどこでどう訪れるのか、という事を考えさせられる。
労働階級出身でももちろん出世して大金持ちになっている人達はいる。自分の出身をなるべく大きな声では言いたがらない人もいれば、逆にそれを売りにして人気を得ている人もいる。ヴァージングループのリチャード・ブランソン氏はその後者だ。お金や成功にかかわらず、労働階級出の匂いを無くしていない


何かが起こるという芝居ではなく、日常のごく普通の人間の葛藤や忍耐ややりきれなさ、そんなものがにじみ出て来る台詞劇だ。主演のイメルダ・スタウントンがとにかく素晴らしい


Hampstead Theatreはやはり客席200弱の小さな所だけれど、この芝居のウェストエンド進出が決まったそうだ

現実を突きつけられる芝居は時にちょっと胸が痛くなる。でもそれが人間の心理を描くということなんだよね
