見つけもの @ そこかしこ

ちょっと見つけて嬉しい事、そこら辺にあって感動したもの、大好きなもの、沢山あるよね。

August 2013


もう観ていてホントに笑えるのよ。コメディーなのだから当たり前か。おまけにノエル・カワードの本は辛辣な台詞とそのテンポで、クスクス笑いから大笑いまで自在に観客の好奇心を満たしてくれるのだ。今回の芝居はノエル・カワードの「Private Lives=私生活」

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ポスターを見ただけで”良いキャスティングだ”、、とピンと来る。4人(ともう一人)芝居の主演2人はトビー・スティーヴンス(Toby Stephens)アナ・チャンセラー(Anna Channceller)のコンビ。お二人とも英国では御馴染みだ。トビーは解り易い所では007での悪役(Die another Day)やBBCの「ジェーン・エア」でのロチェスターがあるけれど、それ以上に舞台での活躍も多い。アナはちょっとポッシュで意地の悪いクラシックな役で印象に残っている作品、「Four Weddings and a funeral」やBBCの「Pride and Prejudice」なんかがある。どちらもちょっとアクの強い役を演じたらピカイチの役者だ

プロットは、5年前に大喧嘩の果てに離婚したアマンダとエリオットが、各々再婚する事になり、お互いその新婚旅行一日目にして同じホテルの隣り合わせのバルコニーで鉢合わせしてしまうという出だし。ハネムーン初日なのに、エリオットの再婚相手のシビルはさりげなく彼の前妻=アマンダの事をいろいろ聞いてしまい、ちょっとエリオットは苛ついている。エリオットとアマンダは数年間の結婚生活の間も何度も衝突を繰り返し、大喧嘩の果てに離婚して以来5年が経っている。話題を変えようするエリオットだが、若いシビルは好奇心からついアマンダの事を聞きたがってしまうのだ。(というより、最終的には「あんな女より今は君をずっと愛しているよ」という言葉が欲しい??)次に彼等の隣の部屋のバルコニーに今度はアマンダと再婚相手のヴィクターが現れ、同じようにヴィクターが彼女に前夫のエリオットの事を聞いている。このシーンの掛け合いが前シーンの台詞とかなり被って笑える。

避けようもなく、ハネムーン初日に別れた相手と再会してしまい仰天する2人。すぐさまホテルを代えようとお互いに必死で新婚の妻/夫に訴える2人だが、事情が飲み込めないシビルとヴィクターは急変した夫/妻の態度が納得できずに部屋を出てバー/ダイニングルームへと行ってしまう。改めてバルコニーで再会したエリオットとアマンダは話をするうち今でも2人の心にお互いを求める気持ちが燻っていた事に気付いてしまう。焼け木杭に火がついてしまった2人はなんと!!パリのアマンダのアパートへと駆け落ちしてしまうのだ。新婚のパートナーを置き去りにして・・・

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駆け落ちしてきたパリのアパートで2人はお互いの愛情を確認し合う一方、ともすると激しい言い争いになっては2人の間で決めた合い言葉(これを言ったらすぐに2分間は沈黙して冷静になるという取り決め)でなんとか収めるという場を繰り返す。そしてとうとう収まりがつかずに取っ組み合いになった所へシビルとヴィクターが揃ってやってきて・・・

何と言っても主役2人のケミストリーが素晴らしい。アマンダとエリオットは男と女の違いはあるものの、気性が似ている。だからこそ仲が良い時と争いになった時の起伏の激しさが倍増する。不思議なもので、仲良くしている時のアマンダとエリオットは台詞の端々にシニカルで辛辣な部分があるのに、激しい争いになった時にはむしろ2人ともかわいく見えてしまうのだ。男と女のケミストリーは同時に役者同士のものでもあり、このお二人の相性は素晴らしい。

長続きしているカップルは、似た者同士でほとんど喧嘩もせずに穏やかに暮らしているパターンと、性格や趣味は正反対で回りから見ると「なんで、、?」っと思われながらもお互いを補い合ってうまくやっていくタイプ、そして誰よりもお互いを理解して愛し合っているのに事ある毎にぶつかり合う、愛憎劇場タイプがある。エリオットとアマンダは最後者だ。1幕で昔の妻/夫の話をしている場面でも、2人の中に愛憎の火が燻っているのが観客に解ってしまう

かくいう我が家もしょっちゅう大喧嘩になる。これは実はとても疲れるのだ。翌日(あるいは1日半後)には元に戻るのだけれど、一度感情が激して争いになった時は本当に気力を消耗する。だから離婚した後のエリオットとアマンダが、その後に全く違うタイプを再婚相手に選んだのも無理も無い。でも実はこの2人、本当に穏やかに平和な暮らしを続けて行けるか?と考えると、実はそうはいかないだろうという事も解ってしまう。この2人の気性からして、シビルとヴィクターでは絶対に満足できないはずだ。そう、きっと飽きてしまうだろう。
2人とも、愛し合うからこそヘトヘトになるような激情の応酬が必要なのだ。取っ組み合って殴り合っていても憎み合っているのではない・・・・ノエル・カワードという作家は男と女のそんな微妙な関係を実に巧みに台詞にしている。ちなみにこの芝居の初演ではカワード自身がエリオットを演じている。
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ラブラブかと思うと物を壊し、叩き合うような関係の2人はそれでも愛し合っている。他の誰にも埋められない2人だけの絆が確かにあるのだ。それは見ていて滑稽でもあり、ちょっと胸に痛みを感じる切なさでもある。最期には今度はシビルとヴィクターが大喧嘩を始めて、どうやらこの2人の相性もなかなか良さそう、、、と感じさせる中でアマンダとエリオットはまたしても2人で逃げてしまう・・・

男と女の微妙な食い違い、、、これは永遠に縮まらない。深くて暗い川がある、、とまでは言わないけど、噛み合わなくてイライラするのにやっぱり相手が必要であり、求めてしまうのだ。人間のいじらしさを巧みな台詞とテンポで書き上げたカワードの傑作

ちなみにトビー・スティーヴンスの両親は2人とも名の知られた役者だ。マギー・スミスとリチャード・スティーヴンス。そして両親2人のアマンダとエリオットで過去にこの芝居を演じている。さらに今回シビルを演じているのがトビーの実際の夫人であるアナ・ルイーズ・プロウマンだ。実の夫人演じる新妻を置き去りにして昔の妻と逃げてしまうトビー、カワードの台詞の如く「俺は男だからな」と粋な気分で演じているのだろうか・・・?(もちろんプロの役者なのだから演じるからにはそんな事は二の次なのだろうけど?)


以前にも書いたとおり、我が家はロンドンの端っこであります。シティーと呼ばれるロンドン経済の中心地まで電車で35分。でもうちから逆方向に35分行ってみると・・・??という事で行ってみました。古くからマーケットタウンとして知られる小さな街、Hitchin。1駅行ってロンドンを出ると途端に何もない田舎の風景になってしまう。駅の間隔が都心へ向うのとは全然違うので、かかる時間は同じでも距離はもっと遠い。電車もその分ものすごいスピードで走る!

駅というのはたいてい町外れにあって、大きな街だと大抵バスでタウンセンターへ、、となるのだが、ここHitchinは駅から中心地まで歩いて15分程(バスもあるけど)。マーケットは週に3日だそうで、ちょうどこの日はオープンの日。街の中心からメイン通りが2本。どちらも古いキャラクターを残した建物が並んで、ブラブラ歩くには丁度良い

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うちの街と違ってショッピングセンターみたいなものは無くて、そのかわりに個性あるインデペンデントなお店が沢山あるのは嬉しい。何処に行ってもあるようなチェーン店ばかりのショッピングアーケードは面白くないものね。それでもちょっと洒落たレストランやカフェみたいなお店はいくつもあって、決して古くさいという感じでもない
マーケットは・・・う〜ん、、、特に何と言うほどのものでもなかったけれど、結構なスペースで、新鮮なお野菜や果物からよく解らないガラクタみたいなものまであった。カーペットなんかも売ってたなあ・・・?むか〜しからあるから今でも続いてますって言う感じで、マーケットそのもののクオリティーはそれ程でも無いみたい。
メインの通りの間にちょっと目につかないような通り抜け道があったりして、実は私はこういう所に目がないのだ

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マーケットの隣にはこの街の中心、St.Mary's Churchがある。この教会の前身は792年に作られた修道院で、その後何度が立て直されて今の教会になったのが14世紀だそうだ。正面には池があって丁度今の季節はアヒルの雛達が親鶏について回る可愛らしい光景が観られる。親子連れもランチタイムのオフィスワーカーもベンチや芝生に座ってお昼の一時をくつろいでいた。残念ながら今は大幅に外壁を修理中で建物の半分近くに足場が組まれていて、教会正面からの写真は撮れなかったけれど、裏側に廻るとちょっと良い雰囲気だったので横から一枚

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小さな街だから端から端まで歩いても2時間でおつりがくる。結局同じ通りを2ー3度ずつ歩いたかな・・・この建物なんてどうみても歪んでる・・・ ドアや窓はちゃんと閉まるのか、と気になってしまう。でもこんな歪んだ建物がイギリスの田舎にはいっぱいあって可愛いんだよね。

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そしてなんとこの街、マクドナルドもKFC(ケンタッキー)も無いのよ!! もしかしたらもうちょっと町外れにあるのかもしれないけど、少なくともタウンセンターにこの2つが無いというのはちょっとびっくりだった。スタバはあったけど・・

自分がこんな小さな街に住むなんていうのはやっぱり考えられないけど、休みの日にちょっと半日いつもと反対行きの電車に乗ってみるのも楽しい発見だ


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ちょっと変わっててちょっと長いタイトルの芝居「The curious incident of the dog in the night-time」、初演は実は1年前のNTだった。この時は一番小さなスタジオシアターでの初演。でも評判がすこぶる良くて、後にウェストエンドに移動して今年のローレンス・オリビエ賞でなんと7部門を受賞した作品だ。もちろん、ベストプレイ、ベストアクター、ベストダイレクターを含む。興味があったのになかなか腰が上がらなかったのは、そのタイトルやポスターで、子供向けっぽいストーリーなのか(War Horseのような)と思ってしまったからだ。でも劇場上映されたNT Liveの一部クリップを観て、これは観なくては・・・と思い立つ。丁度ベストアクターを受賞した主演のLuke Treadawayを含め、キャストが8月いっぱいで変わると聞いたので、良いタイミングだった

原作も同タイトルの本で英国の文学賞を受賞している。主役は15歳のクリストファー。2年前に母を亡くして父と2人でスウィンドンで暮らしている。彼はちょっと普通の少年とはちがって一種の対応障害を持っている。原本にははっきりとは書かれていないそうだが、一応プロットとしては、クリストファーは「アスペルガー症候群」という事になっている。
知的障害ではないけれど、人との会話がうまくいかなかったり、言われた事や自分で決めた事を変える事ができずに固執したりしてしまう。それでいて興味がある事やある特定の分野において驚異的なこだわりと集中力を持ち、他の人とはかけ離れた能力を発揮する事がある。クリストファーの場合は数学に驚異的な能力を持ち、シャーロック・ホームズのような探偵ごっこに盲目的にのめり込む。

ある夜、近所で飼われていた犬がガーデンフォークで刺されて殺されていた。「誰がウェリントン=犬を殺したのか」クリストファーは徹底的に調べ始める。何故、誰がやったのかを突き止めようと、いつもはおつきあいの無い近所の家を一件一件尋ねていく。クリストファーの普通でないのめり込みに、父は「他の人の生活を掘り返すのはやめて、犬の事は放っておきなさい」と再三言って聞かせるのだが、クリストファーは聞かない。そうするうちに近所の老婦人から重大な秘密を聞いてしまう。そして母が死んだというのは父の嘘で、実は近所の男性と駆け落ちしてしまったのだという事、さらには母がその後何十通もクリストファーに手紙を書いてよこしていたのを父が隠していたという事を知ってしまうのだ

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ストーリーはクリストファーがウェリントン殺害の捜査状況を本にしようと書き留めていくのを、先生がそれを読みながら彼の次なる行動を見せる形で進行する。演出はとてもモダンで、セットや大道具の類いはほとんど使わずに舞台全体に張り巡らされた電光版を巧みに使って時には幾何学的に、時には3Dのように背景を創り上げる。クリストファーの持つ障害は、思い込んだら怖い物知らずで、それでいて対人関係がうまく成り立たず、聞かれた事に対する素直過ぎる答えはむしろ回りを困惑させる。それでいて彼自身の持つ世界はとてもピュアだ
その驚異的な数学力で、15歳にして大学入学レベルの試験(AーLevel)を受ける事になったクリストファー。大人達の事情はどうあれ、父にも母にもそして先生にも愛されている彼は数学者として羽ばたく大きな未来を夢見ている。

母の駆け落ち相手がウェリントンの飼い主の元主人であり、実は殺したのは父だったと知ったクリストファーは、家を出てロンドンの母(と愛人)の所へ向う。ペットのネズミを連れて一人でスウィンドンからロンドンへ向うクリストファーの大冒険はユーモアに溢れていながら実は危うくて、そして必死だ。彼独自の世界と他の普通の人々の世界のギャップ、それを乗り切る事運びの巧さは見事な演出だ。

まずストーリーがとにかく解り易い。そしてクリストファーの持つ障害とその彼の世界から見た本来は普通の社会とのズレが、実はとても純粋に「良い事」と「悪い事」を分けて行く。電光版をフルに使ったステージは宇宙空間のような広がりを出していて、クリストファーの持つ純粋さを反映させている。アンサンブルの役割も巧みで、これは本当に素敵な舞台に仕上がっている。ウィットに富んだ台詞のやりとりはとてもユーモラスだ。演出は女性だけれどとてもモダンな発想で、まさにBest New Playにふさわしい

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良い事、悪い事、好きな事、嫌いな事、クリストファーにとってそれらは飾る事無くごくシンプルに分けられている。お世辞や取り繕いや見栄は彼の世界には無い。とても純粋だ。だからこそ、彼が怯える時、不安になる時、怒る時、喜ぶ時の心の震えが伝わってくる。後で15歳のクリストファーを演じているLukeが実は28だと知ってビックリした。役を演じていた時にはせいぜい20歳くらいかと思ったから・・・・そういえば、彼が取ったのはBest Actorで、Best Newcomerじゃなかったんだよね・・・台詞も体の動きも実にしなやか!彼で観られてよかった。

確かに原作は子供向けにも大人向けにもなっているようだけれど、舞台は決して子供向けではない。むしろ大人達への皮肉にもとれる部分もある。そして決してアスペルガーを知って欲しいというような意図があるわけでも無い。むしろ原作者は、はっきりと書いていないのに「アスペルガー症候群」と明記されて、それを話題にされる事にとまどっていたという。そういう問題じゃないのだ。探偵ごっこと素数に夢中で、将来は数学者になる夢を持つクリストファーが、ご近所の犬が無惨に死んでいたのがきっかけで大冒険をする中で、さまざまな素朴な疑問を私たちの内に芽生えさせる。芝居というのはそういうものだ。社会的な意図ではなく、心に何を伝えるかで芝居の善し悪しが違って来る

良い芝居を観た後は後味が良い。来月でキャストは変わっても芝居はまだまだ来年まで続くらしい。是非おすすめ!!


いや〜〜、30度級の日々が続いて寝苦しいわ、バスは蒸し風呂だわ、日本で買ったお扇子が大活躍の毎日だったけれど、やっとイギリスの夏らしくなった。友人の娘さんが来ていたので前述の通りお茶したり、ロンドンを観光気分で歩いたり、26年振りに「オペラ座の怪人」を観たり・・・と結構おじさん/おばさんも楽しんだのでした
イギリスらしい夏の気温といえば23-4℃。湿気が少ないから東京の10月初めみたいな感じかな。

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初演キャストで観て以来のファントムは、相変わらずのパワーで、それでいて仕掛けや衣装が洗練されて古さを感じさせなくなっていた。シャンデリアの落下も初演時の数倍速かったような気がするが・・・??
何と言っても初演からのこの劇場=Her Majesty"s Theatreはこのダークでロマンチック、パリ・オペラ座のゴシックな背景の芝居を上演するのに本当にピッタリな劇場だと新ためて思ったよ。ただ、テクノロジーで洗練されたのはもちろん良いのだけれど、ファントムとクリスティーンが地下の降りて行くボートのシーンは、ぎこちない印象だったけれど、昔のほうがなんだかミステリアスな空気が出せていたと思うなあ〜〜

いろんなビデオクリップや映画版、25周年記念コンサート等、何度もいろんな所で観ているし、初演以来オリジナルのサントラ版は初めから終わりまで歌える位に聴いているのに、それでも飽きがこないというのはやっぱりこの芝居はなんだか特別だ。すべてのタイミングがベストにマッチしたんだろうね。原作、台本/歌詞に曲、オリジナルのストーリーから舞台化への過程で、すべてのアイデアがベストに噛み合った異例の傑作舞台だと思う。こんな舞台は本当に何十年に1本しか創れないんだろうな。


観光気分でロンドンを歩くと今まで見えなかったものが 見える。トラファルガースクエアーをマル(The Mall)から振り返って見るとなんだかツンツンしたものが目についた。写真だとちょっと小さいけど、手前の数本の街頭ランプや教会の向こうに見える建物のフラッグポールがツンツンととんがってる景色

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夏は日が長いのが本当に嬉しいイギリス。この夏の時期だけはやっぱりイギリスに住んでいてよかったと思う。とはいってもほんの5ー6週間の話だが・・・夜の7時を過ぎてからもうひと頑張り歩き回れるからね。沈みかけた夕日がまっすぐにタワーブリッジに当たって、これは本当に数分のシャッターチャンスだった。こんな景色がみられた時は、ロンドンの良さを再認識できる・・・

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個々数日はもう鱗雲が出てるから「」の匂いなんだよね〜〜。それでもまだ私たちなりには暑いので、もう少し、もうすこしだけ短いイギリスの夏を堪能したいものです。どうせ9月を過ぎたらあっという間に日が短くなって寒くなって暗くなって、またジメジメ〜〜、ドヨヨ〜〜ンな冬がやって来るんだもの・・・

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